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 丸井ブン太と
 女の子の電話は長い。
 いつものように緩く開いた戸から、弦一郎は赤也の様子を窺って居た。
 風呂上がりの赤也は、フリース素材のパジャマでベッドに転がり、楽しそうに携帯で話して居る。
「そんでね…」
 赤也の横顔も、可愛い…。
 年頃だから、色々な噂話に花を咲かせるのも解る。しかし、電話の相手が問題だ。
「さすが仁王先輩っす!」
 若い男女がこんな夜(21時)に長電話など、いかがわしい!弦一郎は然う思っていつ赤也の電話を取り上げようかとタイミングを計る。だが、今一歩が踏み出せずに居た。
「彼女、居るのかなぁ〜…」
 うっとりと目を細める赤也。
 幾ら鈍感な弦一郎でも解った。赤也は、恋をして居る。

「ぅわっ!オヤジ、何してんの!?」
 部屋の外ででかい図体の父親が踞って居れば、誰しも驚く。赤也は一歩後ろに跳ね退いた。
「赤也…」
「で、電話なら終わったっす!」
 赤也は脱兎の如くリビングに降りた。

 リビングのソファーで赤也がテレビを眺めて居る。弦一郎は隣に腰を下ろした。
 先ほどの口振りから言って、電話相手の仁王が恋愛の対象では無いようだ。他に思い付くのは…。
 然う考えながら、弦一郎は赤也の横顔を見詰めた。丸い頬がピンクに染まって、口元は恥ずかしそうに笑む。
 赤也の視線の先を辿る。テレビの音楽番組では司会者に挟まれて、最近よく見掛けるようになった歌手が話して居る。派手な赤い髪と甘いマスクは、少女達を虜にするのも容易いだろう。
 また赤也の顔を見ると、今度はニヤニヤと笑って居る。
「何笑ってるんだ?」
「えっ!」
 赤也は湯気が出るくらい赤くなった。
「あか、赤くなんかなって無い!」
「いいや、真っ赤だぞ。熱か?」
 弦一郎の手が赤也の額を覆う。だが途端に其の手を叩き落とされた。
「ばかっ!丸井ブン太が見えないっ」
「なっ…」
 再び弦一郎がテレビに目を移すと、例の歌手がバンドを従えて、マイクを両手で包み、まさに歌わんとして居る所だった。画面の下部には曲名と、彼の名であろう「丸井ブン太」の文字が小さく表示されて居た。
 赤也の顔はすっかりご機嫌になってる。
「丸井ブン太、超カッコイイ!」
 翠の目がとろけた。
 弦一郎は長電話の事なんかすっかり忘れて、画面に映る男にジェラシーを燃やした。


あきゅろす。
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