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わがままプリンセス


 赤也は掃除当番が大嫌いだ。月に一度回ってくる掃除当番は、一週間、皆が帰るのを尻目に教室に残って掃除しなければならない。
 教室の床を掃きながら思う。
 ─もーっ!先輩待ってるのに…嫌になっちゃう!
 赤也は一つ上の先輩、仁王と付き合い始めて間も無い。
 仁王は周りから“イケメン”と言われるだけあって、流行りの顔立ちの二枚目で、赤也だけで無く、お近づきになりたいと言う女の子は数知れず居る。
 赤也も前々から格好良い先輩が居ると仁王の噂は聞いて居た。少女らしい憧れも抱いて居なかった赤也だが、ある日仁王に首ったけになる。
 其の日、夕暮れの河川敷を赤也は掛けて居た。何と無く走って追い抜いた野良犬に、散々追い回されて居たのだ。茶色い犬は牙を剥き出しにし、涎を垂らして赤也を追い掛けた。とても少女が可愛らしいと言って飛び付く顔では無かった。其の上、野良犬の目は赤也の真っ白な柔らかい太ももに釘付け。赤也は半べそをかきながら只管(ひたすら)逃げた。為す術無しと思われた其の時、目の前に現れた人物が遠くに放ったスーパーボールに、野良犬の注意は向けられた。其の人物こそが仁王だった。本人曰く「白いふわふわのモンがぴょんぴょんしとったから何かと思っての」との事。其の“白いふわふわのモン”と言うのが赤也の事だったらしい。…

+++

「におせんぱいの…バカーッ!!」
 仁王はいつものように昇降口で携帯電話を弄りながら赤也を待って居た。
「…何じゃ。待っとったのに」
「何なのっこれ!」
 赤也は仁王の胸に拳を突き立てた。
 赤也が緩く開いた拳の中に、一枚のプリクラがある。
「この女、なに!」
 プリクラに写るのは仁王と上級生であろう派手な格好の女の子。二人は腕を組んで、其の間は密着して居る。
「今日、掃除中に落ちてたんスけど!」
 赤也は涙を浮かべた目を真っ赤にして仁王を睨み付ける。
 仁王は口の端を上げてニヤニヤ笑った。
「この浮気者!だいッきらい!」
「そうか。嫌いか。じゃ帰るわ」
 自棄(やけ)になった赤也の口から出任せを仁王はさらりと受け止めて颯爽と歩き出した。
「待って!ウソ!嫌いじゃ無い!」
 赤也は其の腰にしがみついて二三歩引き摺られた。仁王はまた笑って居る。
「赤也、こいつは去年のじゃよ」
「ふぇ?」
「元カノ。今は赤也しかおらんから」
 然う言って仁王は優しい表情になって赤也を見詰めた。赤也は耳まで真っ赤になる。
 ─仁王先輩かっこいい〜!
 仁王の整った顔を目前にして、赤也はメロメロだ。
「さ、靴履き変えて、帰るぜよ」
「え?」
 赤也は上履きのまま地面に下りて居た。
「ま、まま待ってくださいっ」
 赤也は子犬のように軽く弾みながら靴を履き変え、トテトテと仁王の後を追った。




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