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リトル・ガール


「今度の土曜日、うちに誰も居ません!」
 帰り道の別れ際、赤也は恋人の柳に其れだけ言って逃げるように帰った。少しだけ勇気を出して言った言葉は、柳に届いただろうか。

+++

「柳さん、嬉しい…」
 土曜日、部活後の柳は切原宅に訪れた。赤也は部屋に上げるよりも先に、柳の胴体に抱き付いて迎えた。柳は優しく赤也の髪を撫でた。
「部活後だから、汚いぞ」
「ウソだ、柳さん。良い匂いするもん…」
 柳が微笑する。
「あーっ!」
 突然赤也が大声を出した。柳の肩は驚きに震える。
「お風呂、洗って無い…。柳さんに入ってもらえば良いのに洗って無い…」
 柳はまた微笑を零す。
「別にいつだって構わない」
「でも…部活後のお風呂って気持ち良いじゃん…それに…」
 ごはんにする?お風呂にする?それとも…と言うお馴染みのフレーズが赤也の頭の中で回った。
「じゃあシャワーだけ浴びるよ」
 風呂借りるぞ、と言い残し、柳は勝手知る切原宅に足を踏み入れた。

 勿論、今日は柳に泊まって貰う積もりだ。今日一日だけでも、赤也は擬似的新婚生活を送る事を思い描いて居た。
 大好きな柳と付き合って居るが、几帳面で器用な柳は赤也より遥かに淑やかな面を持ち、其れによって赤也は幾度も助けられて居るが、コンプレックスにならない訳が無かった。
 今日ばかりは、赤也なりの少女らしさを柳に見せて、柳に少女である自分を知って貰いたいと思って居る。
 ─よし、柳さんがお風呂入ってる間にごはん作ろう!
 赤也は料理する自分の後ろ姿を見た柳が目を丸くするのを想像して、ムフフと一人で怪しく笑った。

 ─…ドッカーン!!
 家を揺らさんばかりの衝撃に、柳は風呂を飛び出した。
 タオルを腰に巻いて、音源のキッチンに駆けつけた。
「一体、何があった!?」
 黒焦げの電子レンジと其の前で仰向けに倒れる赤也に、柳は水を垂らしながら駆け寄る。
「レンジが、爆発した…っす…」
 赤也の鼻先も煤けて居る。
「何故?」
「分かんないっす…」
 柳はゆっくりと赤也を其の腕の中で抱き起こした。
 料理しようとして居たのか、キッチンのテーブルは実験台に成り変わって居た。
「…赤也、」
「ガクッ」
「おい、赤也?赤也っ!」
 赤也は柳の腕の中で気を失った。

+++

 赤也は美味そうなカレーの匂いに目を覚ました。
 リビングのソファーで上体を起こせば、目の前のテーブルに鍋と炊飯器が並んで居る。
 ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。
「赤也、起きたのか」
 視界の端から柳がひょっこり現れた。前もって柳の為に用意しておいた、父の浴衣を彼はさらりと着こなして居る。
「…カレー、柳さんが作ったの?」
「ああ。材料は勝手に使わせて貰ったよ」
 赤也が使う予定だった確率百パーセントだ、と付け足して微笑む。
 柳の言う通り、赤也はカレーを作る用意をして居た。
 柳は二人分のカレーを装う。
 具は綺麗な食べ易い大きさで、“とろみ”も赤也好みについて居る。
「ご飯にしようか、赤也」
 優しく微笑まれると、赤也は自分が情けなく思えて、到頭泣き出してしまった。
「どうした、赤也?」
 柳はソファーの淵に掛けて、赤也に覆い被さるようにして彼女の癖毛を撫でて宥める。
「ひっく…ひっく…」
「泣いてばかりじゃ分からないぞ。とにかく、飯を食べたらどうだ?」
 赤也が答えるより、彼女のお腹は正直だった。
 赤也は身体を起こして、ソファーでカレーライスを食べる。柳も隣から其の様子を見ながら同じ物を食べる。
 見れば、黒焦げの筈のキッチンは綺麗に片付けられて居る。赤也は自分の犯した失敗を思って飯を食べながらまた泣いた。

 赤也は丸々二杯のカレーを食べ(因みに柳はお代わりしなかった)、背凭れに深く身を埋めて、ぽっこり膨らんだ腹を撫でてまだ泣いて居た。
「一体、何をそんなに泣く必要がある?」
 赤也は一層涙を流した。
 柳は溜め息を吐く。
「別に、料理が出来なくたって構わない」
 赤也は隣の柳を見上げる。柳の長い腕は小さな赤也の身体を優しく抱き寄せた。
「赤也はまだ中学生じゃないか。料理なんか出来なくて当然だろう?」
「でも、柳さんだっていっこしか違わないし…」
「…俺は興味本意に色々手を出してるだけだ」
「それに皆お弁当作って来てるよ?」
 赤也は指折りにクラスの友達の名前をあげていった。
「おれも柳さんにご飯作ってあげたいもん…」
 また赤也は泣き出した。
「赤也…」
 優しい柳の声に、赤也は声を上げて泣いた。
「赤也は可愛いな」
 柳の広い手は、赤也の膨らんだ胃の辺りを撫でた。
「…可愛く無いっすよ」
「可愛いよ」
 柳は赤也の腹を撫でたまま、彼女の小さな唇に口付けした。
 赤也は驚いて元から大きな瞳を真ん丸にして柳を見詰めた。柳は其れに微笑で応えて、また唇を啄んだ。
 幼い赤也には、せいぜい一日一回のキスで充分だった。其れだけで赤也は一週間は幸せな気持ちで居られるのだ。
 しかし、今日の柳は何度も何度も口付ける。
 赤也は真っ赤になり、ぎゅうっと強く目蓋を閉じた。
 柳の手が項(うなじ)に回される。合わさった唇にゆっくりと舌が差し込まれ、赤也は逃げたくなった。
 ちゅ、と音を立てて柳が離れる。
「嫌か?」
 赤也は強く首を振った。柳はまた笑って、赤也の唇を奪った。
 無意識に顔を離そうとするのを、柳の手が項を掴んで阻止する。赤也は洋画のようなキスに、知らず内腿を擦り合わせて居た。
「…はっ、やなぎさん…」
「可愛いよ、赤也」
 柳の手が膝頭を撫で、ぴたりと合わせた腿に指を差し込む。意図を持った指の動きは赤也にとって初めての物だった。
 ゆっくりと赤也のスカートに柳の手が忍んで、赤也は身を震わせた。
「や、柳さんのエッチー!!」
 赤也は剥き出しの足で柳の腰を蹴った。眼前の柳眉が微かにひそめられた。
「そ、そりゃカノジョのパンツ見たいかもしんないけど、柳さんがこんな事するなんて知らないっすよ!」
 赤也は真っ赤になってスカートの裾をきつく押さえた。柳は少し意地悪く笑った。
「俺は下着の下も見てみたいと思っているぞ?」
「え?柳さん?」
 柳の綺麗に伸びた指が、赤也の胸に突き立てられる。丁度あの先端に爪が当たって、赤也は顔を真っ赤にした。
「赤也の事を、もっと知りたいんだ…」
「ひゃっ、やん…柳さんっ」
 指先で触れた敏感な突起をくすぐられ、赤也は身を竦めた。
「やだやだ!こんなスケベな柳さんなんか知らないっす!ばか〜」
 赤也が涙ぐむので柳は手を離し、小さな赤也の身体を胸に抱き締めた。
「すまない、赤也。お前にはまだ早かったかな」
「クスン、クスン…」
「…いつか、お前の女の子を見せてくれ…」
 赤也は桃色の指で柳の浴衣をしっかりと握りしめた。






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