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酒ノ呪


―呼んだか、大海人。―

「誰も呼んでおらん、漢。」



二人きりの、この世界。


本当の己はいずこか。



たまに、わからなくなる。




紅とも蒼ともつかぬ月を見て、息を吐いた。





―じゃあ、何故酒を飲んだ?―
「俺だって酒ぐらい飲む」
―契約の筈だ―
「飲むなと言うか、俺に」
―契約の筈だ―
「煩いぞ」
―兄の言うことは素直に聞くと言うのが筋であろう―
「お前は俺で、俺はお前なのだぞ。第一、封じられたお前を兄などと思っていない」
―葛城に邪険にされているからと言って、オレにあたるのはどうなんだ?―
「五月蝿いっ!!…兄上は関係なかろう!?」


うんざりする。
苛々する。

こんな奴が自分の中の一角を巣食っているのだと思うと、殺意すら覚える。



―恋煩いか?大海人―
「っ!?か、関係無いッ!!」




奴に解らないわけがないと思った。

奴は俺で、俺は奴で。



俺は兄に想いを抱き、奴は弟に想いを抱き。


俺と奴は同じなのに。


なんだか言葉遊びみたいだ。



―お前はオレと違って積極性がないからなぁ。…どれ、オレが一度、襲ってきてやろうか?―
「下らんことを言うのは止めろと前にも言うたであろう、漢」
―お前は動かんのだろう?―
「何故解る?」
―解るさ、オレは大海人でもあるからな―



そう言って奴は俺の世界から消えた。




不思議な奴だ、と思う。


奴は俺よりも先に産まれ、俺よりも多くを知っている。
そして俺は、奴よりも後に産まれ、奴よりも多くを知らない。

同じなのは、この身体だけ。

他に同じものなど何もない筈だったのに…―。





「兄、か…」




不思議なものだ、と呟いて月を肴に酒を煽った。





あきゅろす。
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