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タケルとヤマト
※一応、タケル→ヒカリではありますが、タケルが別の子とお付き合いしてますのでご注意ください。






「じゃあ、またね」
「うん、気をつけて」
 そんなやり取りがふと耳に入った。その声に心当たりを覚えて立ち止まる。

「……タケル?」
 声がした方へと足を向ければ、思った通りの人物が目に入り、思わず声をかけた。

「え? あ……兄さん」
「やっぱりタケルだったか」
 振り返った人物―――タケルは、一瞬驚いた顔をしたが、声をかけたのが俺だとわかって安心したのか、すぐに表情を緩めた。

「なんでここに?」
 首を傾げて尋ねるタケルに、俺は軽く笑んでみせながら答えを返す。

「たまたま通りかかったんだよ」
「ふーん」
 俺の返答を聞きながら、どこか居心地悪げに視線をさまよわせるタケル。

「……」
「……」
 なんとなく互いに無言になりながら、どちらからともなく歩き出す。

「……彼女?」
「え?」
「いや……さっきの」
「あぁ……」
 納得したように言葉を零して、タケルが小さく息を吐く。そして少し煩わしそうに口を開き

「まぁ、一応そんな感じ」
 と、なんとも曖昧な返事をした。

「そうか……」
「うん」
「可愛い子だったな」
「そう?」
「タケルはああいう子がタイプなのか?」
「別に……タイプかどうかって言えばそうだけど」
 バツが悪そうに言葉を濁すタケルの様子を窺いながら、少し躊躇いがちに言葉を放つ。

「あー……その、なんだ」
「……なに?」
 まだ何かあるのか、と些か鬱陶しそうな視線を向けるタケルに、思わず口ごもる。言おうかどうか迷ったものの、やはり気になって、呑み込んだ言葉をもう一度吐き出した。

「タケルは、その」
「……」
「なんだかんだでヒカリちゃんと付き合うのかなぁと思ってた」
「……」
 無言のタケルを窺うように見る俺に、タケルはチラリと一度目線を送ると、すぐに余所を向いて

「うん」
 と、小さく声を漏らした。

「ヒカリちゃんのことは、好きだよ。多分、一番好き」
「え、それなら……」
「でも、ダメだよ」
「は、何でだ?」
 俺の言葉を遮って、タケルが否定の言葉を重ねる。好きなのにダメなんて、理解ができなくて問い返した。

「何でって……」
 困惑気味にタケルが呟いて、自嘲気味に笑う。

「恋人として付き合うには、彼女も僕を好きじゃないとダメじゃないか」
「……は?」
 呆れたように放たれた言葉に、俺は思わず間の抜けた声を返してしまった。

「だから、」
「いや、うん……わかる。それはわかるんだけど、なんつーか」
 もう一度説明しようとするタケルを制止して、続く言葉を探す。

「……告白すればいいんじゃないか?」
 結局、何も良い表現が浮かばず、ストレートに思ったことを言ってしまった。

「……出来ないよ、そんなこと」
 呆気に取られたように目を見開いた後、タケルが拗ねたようにそう言った。

「なんでだ?」
「……」
「お前、もしかして」
 答えないタケルに、俺は思い当たった理由を口にしてみる。

「フられるのが怖い、とか?」
「……っ!」
 一気にタケルの顔に朱が走る。どうやら図星だったらしいが、まぁなんというか……

「初々しいな」
「うるさいよ!」
 未だ赤い顔で俺を睨み付けるタケル。

「どうせ僕は臆病者だよ」
「そんなことは言ってないだろ」
「いいんだよ、別に、僕は。ヒカリちゃんとどうこうなりたいとか思ってないし」
「タケル……」
「今の関係が変わってしまうくらいなら、告白なんてしなくていいんだ」
「……それで他の子と付き合うのか?」
「それは、」
 少しだけ迷ったように揺れた瞳を、俺は見逃さない。あぁ、本当にタケルってやつはまったく。

「ヒカリちゃんを想いながら、別の子と付き合うのか?」
「……」
「タケル」
「……うるさいよ。もう僕の事は放っておいてよ!」
 叫ぶように言って、タケルが走り去る。俺は敢えて追うことはせず、小さく嘆息した。

「まったく、仕方がないな」
 我が弟ながら不器用極まりない。自分の想いを持て余して、ごまかして。本当はただ純粋に、ヒカリちゃんのことが好きなのだろうに言えないでいる。


「なんて真っ直ぐに屈折してるんだ」


繊細な美しさ



 その歪さが、ひどく愛おしい。





ハイビスカス

―――――――――――
別に好きじゃないのに付き合ってるわけじゃないけど、ヒカリちゃんに惹かれてるのも事実で、告白するのは怖いし…みたいな悶々とした感じのタケルさん。が書きたかったんだと思う。




あきゅろす。
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