タケル/失恋
ハッピーエンドなんて妄想だ。
もう一度愛して欲しい
いや、まぁさすがに「妄想」とまで言ったら言い過ぎかもしれないけど、ハッピーエンドなんてものは、現実にそうそうあるものじゃない。
別れても、想い続けていればいつか報われるなんて、ただの勝手な願望でしかなくて。やっぱりあなたのことが好きですなんて言いながら、もう一度僕の前に現れやしないかなんて都合のいい未来を夢に見ている。
「バカだな」
溜め息と共に吐き出した呟きに、向かいに居た友人が僕を見つめる。
「まだ引きずってんの?」
「まだって……」
呆れたように頬杖をつきながら、ストレートに問うてくる彼に、少しムッとして言葉を返す。
「だってよ、もうあれから一年近く経つだろ?」
「まぁ……そうだね」
「いつまでも過去を追ったって仕方ないだろ。とっとと割り切って次に行くべきだと思うけど」
「……わかってるよ」
「ほんとかぁ〜?」
「本当だよ」
ふーん、といまいち納得していないような声を出しながらも、彼はそれ以上追求する気はないようで、自らの手元にある雑誌に視線を落とす。
「……」
彼女と別れてから約一年。未だに彼女への想いを捨てきれないでいる僕に、友人たちは口を揃えて言うんだ。
―――『もう忘れろ』
彼らの言いたいことはわかる。彼女を想い続けるよりも、新しい恋に踏み切る方が、きっと前向きで建設的だろう。だけど、それでも。
「想うだけならいいかな、とか」
「……お前なぁ」
窺うように呟いた言葉に、友人はやれやれといった様子で雑誌を閉じると溜め息を吐く。
「わかってるよ。想い続けたって、報われることなんかないって」
物語やゲームとは違う。一度離れた人の気持ちを取り戻すことは簡単なことじゃない。
「だったら……」
「それでもっ!」
友人の言葉を遮るように声を絞り出す。思わず大きな声を出してしまったことに気付き、少しだけ俯く。
「それでも、想っていたいんだ」
俯いたまま言えば、わずかな間の後に友人の嘆息と、小さく「そっか」と答える声が聞こえた。
「ごめん、僕の為に言ってくれてるのはわかってるんだけど」
「いいよ、俺も悪かった。好きな気持ちは、頭で考えてどうにかなるもんじゃないよな」
「……うん」
自分でもわかっている。彼女と過ごした日々が、どんどん過去になっていること。でも、彼女を好きな気持ちまで過去になってしまうのが、僕はなんだか怖くって。
「簡単に忘れられるほど、軽い想いじゃないんだ」
僕が忘れたら、あの日々も無かったことになるような気がして。優しい思い出を、手放せる強さを僕は持っていない。
「わかってるんだ、もうダメなことくらい」
けれど、心が求めてしまう。
もう一度愛して欲しい
否定して、望まないフリをして
もう大丈夫と呟きながら抱き続ける。
ハッピーエンドの妄想を。
水仙
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タケルの元カノも話中の友人も、特にどのキャラというのはないです。失恋引きずってるタケルが書きたかっただけ←
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