タケル×ヒカリ
ああ、なんて残酷な言葉かしら。
***
「好き」
「え?」
昼下がりの屋上。隣にいる彼に言ってみる。真っ正面に座って、しっかり目を見て。
「タケル君のことが好き」
真剣に言ったつもりなのに、ねぇほら全然動揺しないのね。当たり前だと思ってるから? それとも……
「僕もヒカリちゃんのこと好きだよ」
嘘。嘘よ、タケル君は嘘ばっかり。
私を好きだなんて、本当みたいな嘘つかないでよ。
「急にどうしたの?」
笑わないでよ。そんな笑顔、見たくないの。タケル君は嘘ばかりね、笑顔まで嘘つきだわ。
「軽々しく言わないでよ」
あ、駄目だ、止まんない。
「好きじゃないくせに」
「好きだよ」
「嘘……っ!」
叩きつける、強く。彼の胸元を強く。
「嘘つき! 私のことなんかちっとも好きじゃないくせに!」
何度も何度も叩く。痣になるとか、そんなの知らない。
「タケル君は誰のことも好きじゃないのよ! それなのに! それなのに好きだなんて言わないでよ……っ」
タケル君の胸元を叩いていた手で、彼のシャツを握り締める。
「私だったら大丈夫だと思った? そうよ、本当に好きになってくれなくても、私はタケル君から離れられないんだから!」
一緒に居て気付かないわけない、感じないわけないでしょう! タケル君は私を好きだと言いながら、少しも私のことなんて見ていないのよ。
「……好きだよ」
落ち着いた優しい声が囁く。
「っ、タケル君のバカ……っ」
これでもまだ嘘をつくのね。
「バカ……本当にバカ……、だいすきよっ……!」
私を見てるのに映さない瞳も、ただ重なるだけの唇も、想いの伝わらぬ手も、切ないほど優しい声も、私を恋人だと言いながら特別扱いしない彼の全てを、好きで仕方ない。
「ごめんね」
謝るくらいなら愛してよ。
抱き締めるくらいなら想いを頂戴。
謝罪も形だけの愛情表現も要らない、欲しいのはあなたの本当の気持ち。
「好きだよ」
そうやってまたあなたは囁く。
残酷な愛の言葉を。
「ヒカリちゃんが、好きだよ」
捕らわれる、嘘だと知っていても縋ってしまう。狡くて優しい愛の言葉。
偽りの恋
いつか本当になる日を
それでも信じているの。
野茨
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