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※丈×撫子
 「突然だけど」
 話は、その一言から始まった。


想うのは貴方一人



「今、僕は非常に悩んでいる問題があるんだけれど聞いてくれるかい?」
 放課後の図書館に二人きり。
 閉館時間は過ぎているものの、図書委員である彼と私は未だ片付かない委員の仕事をするために居残り。誰も居なくなったからなのか、彼はさほど周りを気にする様子もなく言葉を発する。

「ええ、構わないわ。私で答えられることなのかしら?」
 彼から話し掛けてくることは、実はけっこう珍しい。彼が無口というよりは、私が話し掛けに行き過ぎなのだと思うけれど。残念ながら私は、一言でも多く言葉を交わしたいと思う気持ちを秘めていられるような慎ましやかな女の子ではないみたいだ。そんなことを考えながら、彼に返事をする。

「うん。というか、君でないと答えられないと思う」
 その言葉に少し驚いて彼を見れば、本を整理する手を止めて彼も私を見ていた。真面目な顔をして、じっと私を見つめる彼に、さすがに恥ずかしくなる。

「え、なに?」
 どうやら勉強についての話ではなかったようだ。てっきり数学問題の解き方でも聞かれるかと思っていた私の鼓動が、急激に速くなる。これはもしかして……いやいやまさかね、そんな葛藤を心の内で繰り返しながら彼の言葉を待つ。

「木梨君は、その、あー……」
 もごもごと言いにくそうに視線を泳がせて、うっすらと頬を赤く染める彼。この反応は期待してもいいのだろうか、考える私の頬まで赤くなってしまいそう。

「えっと、あー、うん、あの、さっ先にっ、言っておくけどっ!」
「あ、う、うんっ」
 言葉に詰まりながらも、真正面に私を見据えて言う彼に、私も思わず返事に詰まる。言って、早く言ってよ、その先を早く聞かせて!

「僕は正直、木梨君のことが……その、とても気になっている……んだと思う」
 彼の言葉に、知らず唾を飲み込む。それって、つまりは……

「好き、かもしれない……というか、その、好き……です」
 遠慮がちに言葉を濁していたものの、最後には観念したようにそう言って、彼は苦笑した。その言葉に、様子に、息を呑む。その言葉を、どれくらい待ち望んでいただろう。言いたくて、でも、言って欲しくて。すぐに声が出せないでいる私に、彼は話を続ける。

「けど……木梨君には、ほら、好きな人が居るだろう?」
 そうだ。いつだったか相談したことがある。彼のあまりの鈍感さに焦れてつい。私には好きな人がいるのだと。もしかして彼が、自分のことだと気付いてくれるんじゃないか、なんて淡く抱いていた期待は脆くも消えたけれど。

「それはっ」
「それでだ」
 訂正しようとした私の言葉と彼の言葉が重なる。思わず黙った私に、彼は確認するかのように言葉を投げかける。


「君に好きな人がいる、僕は君が好き」

 言って、真っ直ぐな視線を私に向ける彼。真摯な顔、穏やかな微笑み。
 ああ、そうか、そうなのね。

「この不利な状況を前提のうえで、自惚れた事を敢えて訊きたい」

 きっと、この人は、

「木梨君の好きな人は僕かい?」

 もう全部わかっているのね。



 次第に緩む私の口元。それに比例するかのように滲む視界。想いが通じることが、こんなに嬉しいなんて知らなかったわ。

「そうよ、好きよ。城戸君が好き、大好きよ! どうしてもっと早く気付いてくれないのよ」
 待ちくたびれたんだから、付け加えようとした言葉は、声にならずに、とうとう私の視界はぼやけて見えなくなってしまった。
「悪かったよ、気が付かなくて、本当に悪かった」
 声と同時に、躊躇いがちに背に回された腕の感覚で、抱き締められているのがわかる。

「ずいぶん待たせてしまったね」
 ポンポンと優しく背を叩いてもらいながら、穏やかな彼の声を聞く。

「でも、これで僕がここ数ヶ月悩んでいた問題は解決したよ」
 ぎゅっと彼の服を掴んで、胸に顔をうずめる。そんな私の様子に苦笑しつつ、彼はよしよしと私の頭を撫でてくれる。

「……城戸君の鈍感」
「うん、よく言われるんだ」
「気付いたなら早く言ってくれればいいのに」
「……勘違いだったら嫌じゃないか」
 そう言って少し拗ねたように言う彼が何だか可愛くて、私は気付かれないように、小さな笑みをこぼす。

「あ、笑ってる」
「だって嬉しいんだもの」
 安心したような彼の声。
 答えた私の言葉に、彼も小さく笑った。





曼珠沙華



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捏造すぎゴメンナサイ!



あきゅろす。
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