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太一×空
 いつも会いたいと思うわけじゃない。

 日常の中であいつのことばかり考えてるわけでもない。あたしにはあたしの毎日があって、あいつにもあいつの毎日がある。だから、あいつもあたしのこと、いつも考えてるわけじゃないと思う。


 だけど時々、ほんのふとした瞬間に何となく思い出す。ああ、あいつは……



「元気でやってるのかしら」
 呟いた言葉は、近くに人が居なかったから、幸い誰にも聞かれなかった。ベッドの上に寝転んで、頭上に置いてた携帯を開いてみる。いつの間にか来ていたらしいメールに気付いて、少しの期待と諦めを込めて開く。

「……メルマガ」
 やっぱり後者だったか。
 メールの内容なんて、ほとんど見ないで、携帯を閉じる。もう一度、頭上へ。

「たまには連絡してきなさいよ」
 面と向かったら言えないけど、ここには私しかいないから、本音……言ってもいいよね?

「……太一のばーか」
 太一が外交官になるって、そのために英語の本場に行って学ぶーなんて言い出して、本当に行ってしまった。あいつはそういう人。自分で決めたことには突き進んでいく。

「生きてるぞ、とかさ、一言もメールできないくらい忙しいの?」
 あいつの決めたことだから、あたしがとやかく言うことじゃない。だけど、私だってやっぱり、寂しいじゃない。

 会いたい、なんて我儘いわないから。
 声が聞けなくても我慢するから。
 毎日メールして、なんて言わない。

 でも、せめて時々でいいから

「連絡、してよ……」
 一行だって一言だっていい。一方的だって構わない。絵文字も顔文字も要らないわ、漢字変換してなくたっていいのよ。

 過ぎてく毎日のほんの一瞬の中にだけでも感じたい。あいつの中に確かにあたしという存在が生きていること。

「女々しいなぁ……」
 あたし、こんな人間だったっけ?


 あいつのことを考えない時間も確かにあるし、あいつが居なくたって楽しいことは沢山ある。何の支障もなく毎日は過ぎていく、だけど。

「太一……」
 ふと感じるの、『何かが足りない』。
 それはきっと隣に居たあいつの存在。

 当たり前すぎて空気みたいだった。隣にあいつがいることが普通だった。突然空いたスペースを、どうしていいのか、あたしにはまだわからないよ。

「太一……っ」
 ああ、だめ、泣きそう。


「空ー?」
「っ! は、はーい!」
 突然の階下からの母の声に、ハッと現実に引き戻される。慌てて返事をして、階段を駆け降りると、母はあたしを見てニコリと笑った。

「電話よ」
「え……」
「太一君から」
「!」
 サッと差し出された受話器に手を伸ばす。くすくすと笑う母の声が聞こえたけど気にしない。そっと受話器に耳を当てる。

「……もしもし?」
『あ、空?』
 大きく心臓が跳ねた。脈拍があがる。胸が高鳴る。

「うん、……太一?」
『おう』
 まるで初対面みたいなたどたどしいやり取りに、思わず口元が緩む。

「元気?」
『ああ、元気だよ。あのさ、空』
「?」
『あんま連絡できなくてごめんな?』
 予期しなかった言葉に、二の句を告げないでいると、太一が向こうで苦笑したのがわかった。

『俺、あんまマメじゃねーからさ、連絡とかあんまできなくて、』
「そんなの知ってるわよ、ばか」
『……うん。だけどさ、空』
「なあに?」
『俺、ちゃんと好きだから』
「!」
 ああ、耳元が熱い。太一の声が響いて、紡ぐ言葉の全てが愛しい。

『空のこと、好きだから! 今は自分のことばっかだけど、でも絶対……空にふさわしい男になるから』
「太一……」
『だから、もう少し待っててくれ』
「ばか」
 不思議ね。ずっとくすぶってた胸の奥の不安を、すぐに取り払ってしまうんだから、太一ってば本当に不思議。

「そんなの、当たり前じゃない……」
 今、笑ってるあたしの喜び、あいつにも伝わればいいのに。好きよ、太一。

「大好き」


離れた人への熱い想い



 あたし、あなたを待ち続けるわ。





紫苑



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