丈←撫子
「ねぇ、城戸君」
「ん?」
他人の恋の相談役**
「城戸君って、今彼女いるの?」
「え、なっ……何だい急に!?」
唐突に問われた質問に、戸惑いを隠せずに返事をする彼―――城戸丈。それもそのはず。今の今まで今日の授業についてや本の内容なんかについて喋っていたはずが、急に恋の話に変わってしまったのだから。
「……ちょっと気になったから」
質問を投げかけた張本人である彼女―――木梨撫子は意味ありげに丈へと視線を投げ掛ける。
「そう言う木梨君はどうなんだい?」
まだ高校に入学して3ヶ月ほどの二人。しかし撫子のことはクラスを超え、学年全体に知れ渡っていた。新入生に美人が居るぞ、と。それは噂に疎い丈であれ知っている話で、撫子は美人だし人気もあるだろうな等とぼんやり考えていた。そこに、この話題だ。
「私? 私は……残念ながら一方通行みたいなのよね」
「へぇ……」
軽い溜め息をついて答えた撫子に、丈は少し驚いて彼女を見つめる。美人で積極的な彼女のことだから、既に恋人持ちか興味がないかのどちらかだろうと予想していた丈には意外だったのだ。
「鈍感で困ってるの」
やれやれと言うように首を横に振り、小さな溜め息を吐きながら撫子が言う。
「……こんなに好きなのに」
切なげに吐き出された言葉に、丈は不思議な感覚を覚える。いつも明るくて、自信を持って行動していく、そんな彼女しか知らない彼にとって、撫子のその様子は新鮮なものだったのかもしれない。
「なんだか……少し羨ましいね?」
「え?」
予想していなかった丈の言葉に、撫子は思わず驚きの声をあげる。その声には一種の期待も含まれているのだが、丈はそれに気づく様子もなく、口を開く。
「木梨君みたいな美人に、そんなに想ってもらえる相手が少し羨ましいなと思って」
にこにこと悪意のない笑みを見せながら、丈が言い、更に言葉を続ける。
「大丈夫。木梨君の真剣な気持ちは、きっと相手に伝わるさ」
励ますように拳を握り、撫子へとエールを送る丈。
「……ありがとう。……そうだと、いいんだけどね……」
盛大に吐き出された溜め息に込められた、本当の意味に、丈が気付くのはまだまだ先のようだ。
他人の恋の相談役
(自分のことだって、
気付いてないんだろうなぁ……)
藤袴
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