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※雄大←美純


 明るくて、人気者で、いつも輝いていて。そんな人になってみたかった。









「お願い! 一乗寺さん、アンケートの集計手伝って!」
 そう、クラスメートに頼まれて今に至る。教室に一人座って眺めた教室は、ガランとしていて寂しい。そう感じる反面、妙にホッとしてしまうのはどうしてなのかな。

「……できた」
 雑用が嫌いなわけじゃない。けど、はっきり意見が言えない自分は嫌い……少しだけ。

 出来上がったアンケートの集計結果用紙を机の端に避け、散らかった文房具や消しカスを片付けようと筆箱に手を伸ばした、と同時

「あれ? 一乗寺?」
 教室のドアが大きく開け放たれる。見ると、いかにも元気少年といった出で立ちの男の子が一人、此方を見つめ立っていた。

「本宮君……」
 彼の名は本宮雄大君。賑やかで友達も多くて、勉強はそんなに得意じゃないみたいだけど、サッカーの上手なクラスの人気者。

「こんな時間まで、何やってんだ?」
 よく通る大きな声で話しかけながら、彼は此方に近づいてくる。

「あ、えっと、集計……あの、この前の校則についてのアンケートの……」
 喋るのはあんまり得意じゃない。本宮君みたいに、自分と正反対な性格な人とは特に。

「へー大変だな! あれ、でも一乗寺って委員だっけ?」
「あ、ううん、違うけど……えっと委員の子に手伝い頼まれて……」
「その委員の子は?」
「あ、なんか塾があるからって」
「はぁ!?」
 突然の大声にびくりと肩を震わせる。私、なにか悪いこと言ったかな……?

「なんだそれ。自分の仕事、人に押し付けて帰るとかひでーじゃん!」
 まるで自分のことのように怒る彼に、私は慌てて口を開く。

「で、でも、私がやっとくって言ったの。だから、むこうは悪くないっていうか、あのっ……」
 どうしよう、上手く言葉が出て来ない。でも、「やっとく」って私が自分から言ったんだし、彼女は悪くないはずだし、ああ、どうしよう。そんな風に悶々と言い淀む私を、不思議そうに見つめていた彼。そんな彼が、しばらくの間の後、急に笑い始めた。

「一乗寺って優しいな!」
 そう言って、私の頭に手を置くと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でた。

「わっ……」
 男の子からそんなことをされるのに慣れていない私は、思わず体を萎縮させてしまう。けれど彼は、そんな私に気づいていないようで、私の頭から手を離すと、私の前の席に座った。

「よっしゃあ、俺も手伝うぜ!」
「え、あ、でも、その、全部終わった……から」
「え、まじで? うわっ俺はずかしっ」
 おどけたようにそう言う彼。けれど微かに赤くなっている耳を見て、私は少し笑った。

「なんだよ、笑うなよー」
 そんな私に気付いた彼は、拗ねたように言って立ち上がる。

「あ、ごっごめんなさい」
 怒らせてしまったかと思い、慌てて私が謝ると、彼はすっと私の目の前にあったアンケートの結果用紙を手に取る。

「ばっか、そこは謝るとこじゃねーよ」
「え、あ、ごめんなさ……」
「ほら、また!」
「わっ、ごめ……じゃなくて、えっと」
 ついつい謝ってしまいそうになる口元を抑えて、別の言葉を探していると、彼は盛大に笑い出した。

「一乗寺っておもしれーな!」
 それは決して馬鹿にしたようなものではなくて、私はその言葉に一種の喜びすら感じた。

「これ職員室に出しに行くんだろ? 俺が行くよ。せめてそれくらいは手伝ってもいいだろ?」
 大したことじゃねーけど、そう言う彼に慌てて首を振る。そうして、私も一緒に行くと告げる。

「あ、ありがとう」
 そう言って彼を見たら、彼は満面の笑みを見せてどういたしましてと返してくれた。

「一乗寺ってさー」
「え?」
「すっげー優しくて、そんで笑うとけっこう可愛いんだな!」
 笑顔と共に言われたその言葉に、心臓が大きく跳ねたのを感じた。それがいったい何を意味するのか、その時にはわからなかった、だけど


あの日から私の世界は、少しずつ変わりはじめたんだと思う。


初恋

 明るくて、人気者で、いつも輝いていて。そんな人に私は恋をした。






風信子





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