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2009年メモリアル記念(02版)
※タケヒカ、賢京要素あり。
タケルと賢は同じ高校、京はそこのOG。大輔とヒカリと伊織は別の高校、という設定です。









 ―――2009年8月1日






「終わらない」
 呟いた言葉に、傍らの椅子に座る僕のクラスメートはちらりと此方を見て、苦笑い気味に溜め息を吐く。

「手が動いてないよ、タケル君」
 そう言って、自身の作業を止めて指摘してくれる彼の言葉を何度聞いただろう。僕の机の上に置かれたままのシャープペンシルは、先刻……そうだな、30分ほど前から場所を変えていない。

「ついでに言うなら脳みそもだよ」
 軽く悪態を付いて机に伏せる。伏せた机の上には、嫌気がさすほどの課題プリント。夏休みだというのに、何が悲しくて学校で勉強しなくちゃならないんだろうと、深い溜め息で訴える。

「投げ出したい気持ちはわかるけど、やるしかないよ」
 全くもって的確な意見に、ちらと目だけを動かし、彼を見つめる。

「賢君、あとどれくらいある?」
「考えないようにしてるよ」
 わずかな沈黙。彼の動かすシャーペンの音だけが響く。その様子を眺めながら、僕は席を離れ彼の目の前へと立った。そして、それに気付いた彼が手を止め、顔を上げたと同時に口を開く。

「今が決断の時だよ、賢君」
「……は?」
 シャーペンを握ったまま固まっている彼の手を両手で包み込むように握り、至近距離で見つめる。もちろん至極、真面目な顔で。

「僕と一緒に逃げよう」
「…………」
 呆れからか言葉も出ずに固まっている彼に、なんとなく気が済んで手を放そうとした、ちょうどその時

 ―――ガラガラッ

 教室のドアが勢い良く開き、同じくらい勢い良く人が入ってくる。

「やっほー! 二人とも頑張っ……て、る……」
 最初こそ威勢が良かったものの、突然のことに先程の状態のまま固まっている僕達を見て、相手も固まる。

「み、京さ……」
 慌てて弁解しようと口を開いた賢君の言葉より先に、京さんの後ろから一人の女の子が顔を覗かせる。

「どうしたの? 京さ、ん……」
「ひ、ヒカリちゃ……!?」
 出てきた人物に反応したのは僕で、慌てて賢君から離れる。

「……お邪魔だった?」
 顔は笑顔だけど、確実に怒りを感じられる彼女の様子に冷や汗をかきながら首を横に振る。

「ち、違うよ? ヒカリちゃん、これは誤解というか……」
 なんとか弁明しようと必死で否定する僕の努力も虚しく、彼女の静かな怒りのオーラはおさまらない。と、そこに

「浮気かよ、タケル」
「タケルさんに、そんな趣味があったとは知りませんでした」
「確かに賢君は可愛いとこもあるけどねー」
 口々に言って、拍車をかける人達。

「大輔君っ、伊織君に京さんまで……! ああ、賢君もなんとか言……って無理っぽいね」
 見れば、いろいろなことにダメージを(きっと京さんに見られたこととか、京さんに可愛い発言されたこととか)受けたらしく、賢君はすっかり落ち込んでいた。



「私、失恋かな……」
「ちょ、京さん、何言って」
「タケルさんの決めたことなら、僕は応援しますよ!」
「伊織君!?」
「タケルは賢がいいんなら、ヒカリちゃん、俺と付きあおーよ」
「馬鹿なこと言わないでよ、大輔君!」
 次から次へと言葉を投げ掛けてくる三人に、からかわれているとわかっているものの、必死で弁明する。

「あれは本当にふざけてただけだから! 僕はヒカリちゃんが一番だから!」
 言い切った僕に、一瞬、辺りが静まり返る。はっと気付いた時には既に遅くて……

「いやだわ、妬けちゃうー」
「もちろんわかってますよー、タケルさん」
「けっ、タケルのくせに……」
 とかなんとか言いつつ、不自然なくらいの笑みを見せながら(大輔君は拗ねてたけど)僕を冷やかす。

「ま、賢君が浮気なんかするはずないしね」
「京さん……!」
 賢君の側まで歩くと、にこりと笑って言う京さんに、ぱっと晴れやかな顔を見せて賢君が笑う。

「はいっ。僕は京さんだけです」
 そう言って二人の世界を作ってしまった。……なんかズルいな。

「タケル君」
 ふと、声をかけられる。そうだった、僕には僕の問題があった……。

「お疲れ様」
「え、」
 ふわりと抱きすくめられる。
 僕より身長の低い彼女。必然的に屈む形になる。

「最初から怒ってなんかないわ。ちょっとからかってみたの。気分転換になったでしょ?」
 抱き締めていたのを解放すると、こともなげに彼女は告げた。

「本気で焦ったよ」
「そうね、おもしろかったわ」
 くすくすと笑う彼女に、小さく息を吐く。まったく、いつまで経ってもかなわないな。


「課題、終わらないと遊べないんでしょう? 差し入れ持ってきたの。手伝うから早く終わらせましょ?」
 そう言って、僕の手をとり、机へと誘う。彼女がいるなら、さぼるわけにもいかないかな、なんて。


「今年もみんなで迎えたいじゃない?」
「うん、そうだね」
 微笑む彼女に微笑み返して、シャーペンを手に取った。





さぁ、宴の準備をしよう




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祝8/1!
何年経っても、根本的には変わらない。そんな関係ならいいな、なんて!



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