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タケル×ヒカリ
 そんなに深く吸い込んだつもりはないものの、吐き出された少年の溜め息はなんとも深く悩ましげで、それを見た少女はくすりと微笑を漏らした。



「大きな溜め息ね」
 校内にある学生食堂の一角に彼らは居た。たまたま二人共に食堂を利用し、たまたま食事をしに来た時間が被り、たまたま選んだ席が近かっただけで、約束をしていたわけではないのだが、必然的に少女は少年の向かいに腰を下ろした。

「悩み事?」
 食事を乗せたトレイをテーブルに置きながら、少女が問い掛ける。

「まぁ……そんなとこかな」
 煮物に入っていた里芋を箸で弄びつつ、少年が答える。ころころと皿の中で転がる里芋を見つめながらも、少年は心ここにあらずといった様子だ。

「私でよければ相談に乗るよ?」
 いただきます、と目の前で丁寧に両手を併せ、箸を持った少女は少年へ視線だけを投げ掛ける。すると、その少女の言葉に、少年の箸の動きが止まった。

「……それは、出来ないな」
 しばらくの間の後にそう呟くと、少年は先程まで転がしていた、幾分小さくなった里芋を箸でつまみ、口へと運ぶ。少年の呟きに、今度は少女の箸が止まる。そうして、少女がゆっくりと顔をあげると、彼女を見つめていた少年の瞳と視線がぶつかった。

「僕の悩み、九割型はヒカリちゃんのことだからさ」
 そう言って軽く微笑む少年に、少女は箸を持ったまま全身の動きを止める。それはもう、瞬きすら止まるほど。

「ヒカリちゃんのことしか考えられない。ヒカリちゃんが此処に入ってきた時からドキドキして食が進まなくなっちゃったのに、向かいに座るんだもん」

 そう言って、少年は静かに箸をテーブルに置く。そして、唖然としている少女を見つめ、小さく苦笑いを零すと

「胸一杯で食べきれないんだ」
 と言って、溜め息を吐いた。

「でも、残すのは良くないでしょ? だからってヒカリちゃんに別の席に移って欲しくはないしさ」
 言って、少年は箸を持ち直す。

「どうするべきか悩んでるんだ」
 ほとんど手付かずの味噌汁に手を伸ばしながら、少年は三度目の溜め息を吐いたのだった。




貴方を見つめています






「それなら私を見なければいいんじゃないかしら?」
「そんな勿体ないこと出来ないよ」
「……わがまま」
「だから悩んでるんだよ」




ヒメノカリス



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