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タケル×ヒカリ
「明日!」
「え」
「あ、空けてて欲しいの……!」



大好きを君に












 いいよって言われた時は安心した。バレンタイン当日にお誘いなんて、考えてることバレバレだけど、それくらいが丁度いいよね。私的にも心構えできるし、落ち着いて臨めるもの。

「ヒカリちゃん、焦げてる!」
「え!?」
 慌ててオーブンを開けると、黒い煙が部屋に溢れる。中にはいかにも失敗作な変形したケーキ……だったもの。

「また失敗……」
 前言撤回。いくら心構えができるって言っても、落ち着けるわけない。だって今年のバレンタインは特別なんだもの。だから、今こうして頑張っているんだし。……失敗続きだけど。

「ヒカリちゃん、元気出して! 大丈夫よ、もう一回やってみましょ?」
 空さんが励ますように声をかけてくれる。私一人では不安だったから、空さんにお願いして一緒に作っているんだけれど……

「まだ約束の時間まで余裕あるもの。絶対いいの出来るわよ!」
 まったくもってこの人選は成功だったわ。空さんに笑顔で大丈夫って言われると本当に大丈夫な気がしてくるんだもの。

「ありがとうございます。もう一回、頑張ってみます!」
 気合いを入れて、再び材料に向かう。今度は失敗しないように集中しなきゃ。美味しいのあげて、それで、ちゃんと私の気持ちを言うって決めたんだから。


 オーブンから甘い香りが漂ってくる。ドキドキしながら開けると、ほどよく色の付いたケーキが、形を崩すこともなく乗っている。

「ど、どうですか……?」
「うん、いい感じじゃない!」
 空さんの笑顔に心の底からホッとする。良かった、ちゃんと出来た!

「あとはデコレーションして包むだけね。頑張ったわね、ヒカリちゃん」
「ありがとうございます! 空さんのお陰です!」
「あらあら、まだ終わってないでしょ? これからが本番よ。ね?」
 空さんの言葉に顔が熱くなる。そう、もっと大事なのはこれから。

 少し急いでデコレーションと包装をし、二階に駆け上がり服を着替える。ピンクのワンピース。この前買ったお気に入り。今日の為に着ないで取っておいたもの。いつもより念入りに髪をとかして、少しだけお化粧も。全身鏡でおかしなとこがないか何度も確認する。

「うー、緊張する……」
 せっかく整えた髪を乱さないように、けれど早足に階段を降りる。玄関には空さんがいて、優しく笑うとケーキの箱が入った袋を渡してくれた。

「可愛いわ、ヒカリちゃん」
「本当ですか? 変じゃない?」
「変なんてそんなことない。とっても可愛いわ」
 そう言うと、空さんはそっと私の背中を押して、頑張ってと送り出してくれた。

「本当にありがとうございました、空さん!」
「いえいえ、いいのよ。ほら急がないと、待ってるかもしれないわよ?」
「わっ、もうこんな時間……本当に本当にありがとうございました!」
 何度もお礼を言いながら、急ぎ足で待ち合わせ場所に向かう。

「来てくれるかな……」
 少しの不安がよぎったけれど、すぐに大丈夫だと思考を打ち消す。早く彼に会いたい。顔が見たい。


 なんとか約束した時間より10分ほど早く着いて安心したのも束の間。駅前を見渡すと既に目的の人物は来て待っていた。

「あ……」
 声をかけようとして躊躇う。どうしよう、緊張して上手く声が出せない。ケーキの入った袋の取っ手を握り締める。そうよ、せっかく作ったんだもの。これだけでも渡したい。

「ヒカリちゃん?」
 そうこうしているうちに、彼の方が先にこちらに気付いたらしい。私が気付いた時には既に側に立っていて、目が合うと彼は軽く微笑んだ。

「ご……ごめんねっ、待った……かな?」
「ううん、大丈夫だよ。まだ約束の時間より早いしね」
「そ、そっか」
「うん」
 ニコニコと微笑む彼と向かい合いながら、だんだんと鼓動が速くなるのを感じる。それと共にかぁっと熱くなる頬に、ああ今の自分の顔は真っ赤なんだろうななんて、ぐるぐるする頭で考える。

「あ、あのね……あの、えっと」
 とにかく今日呼び出した用件にして最大の目的、すなわち私の気持ちをちゃんと伝えなくちゃ。

「来てくれてありがとう。それでね、あの……あの、ね。あー……えっと」
 ああもう駄目。言えない、恥ずかしい。自分の気持ちを言葉にするのって、どうして、こんなにも難しいのかな。

「……っ」
 言わなくちゃ。早く言わなくちゃ。そう思うのに、言葉が出て来ない。想像してたよりも、もっと緊張する。

 気付けばケーキの入った袋の持ち手とワンピースの裾を力一杯に握り締めていた。泣いてしまいそうになりながら、俯き目を瞑って涙を堪える。悲しくないのに涙が出るなんて厄介だわ。
「……僕ね」
 黙ってしまった私を見かねたのか、彼が静かに話しかけてくる。

「今日、ヒカリちゃんに誘ってもらえて嬉しかったんだ。とってもね」
 その言葉に出かかっていた涙は引っ込んで、思わず顔をあげる。

「自惚れかもしれないけど、特別な意味があるんじゃないかって。僕にとっては、今日ここに来たこと、とても特別な意味を持っているから」
 あげた顔の先には、真っ直ぐに私を見詰める彼の顔。紡ぐその言葉が、声が、不思議なくらいに魅力的に響く。


「僕、ヒカリちゃんが好きなんだ」
 放たれた彼の言葉に、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

「私……」
 この感覚、知っているわ。
 締め付けられるような胸、破裂しそうな鼓動、発熱したみたいに熱い顔。そうなの、彼に恋した時と同じなの。

「私、が」
「え」
「私が先に言おうと思ったのに!」
「は?」
 握り締めた袋を彼へと半ば突き付けるように差し出す。

「好きじゃなかったら、手作りなんてしてこないわ」
 沢山の気持ちを込めたの、あなたが大好きだって。やっと通じた想い、それが一番込めたかった大好きの気持ち。

「ありがとう」
 優しく優しく微笑んで、そっと受け取ってくれる。そんな彼の様子が嬉しくて。



 だから、ねぇ
 止まってよ、涙。


 嬉しい時にも涙が出るの、なんて厄介なのかしら。伝えたかった私の気持ち、今から幾らでも言える。




大好きを君に





「好きよ、タケル君」





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初々しさを重視してみました。
貰ってくださった方々、ありがとうございました!


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