タケヒカ大
気付かないで欲しかった。
気付かせないで欲しかった。
君の気持ち、彼の気持ち
僕の、気持ち
「告白されたの」
夕刻。ほんのり紅く染まった教室はどこか淋しく、それでいて優しい。そんな中で彼女が発した言葉は、僕の耳に残酷に響いた。
「だ……」
誰に、と動きかけた唇を噤んで言葉を呑み込む。聞きたくない。聞かなくても、僕はその相手を知っている。
「私、知っていたのに気付かないフリしてたの」
彼女は問うていないにも関わらず話を続ける。それは僕に話しているというよりも、自分自身に語りかけているようで、ぼうっとした瞳は机の一点を見て動かない。それが、些か僕を苛つかせた。
「……なんでそれを僕に言うの?」
そうだ、苛ついていたんだ。だから、聞いてしまった。それを聞いたら取り返しのつかないことになるって、引き返せなくなるって知っていたのに。
「……どうしてかしら」
一点を見つめていた視線が僕の方を向く。でも、未だ彼女の瞳は虚ろなまま。僕の言葉に、考えるように口を閉じたかと思うと、僕を見つめたまま再び彼女は口を開いた。
「わたし、」
聞いちゃいけない。聞いたら、変わってしまう。なにかが、すべてが。
「タケル君のこと」
言わないで、気付かないで。僕は知らないよ、何も知らない。
「好きなのかもしれないわ」
どうして君の言葉がこんなにも胸を締め付けるんだ。知っていた、知っていたよ。気付こうとしなかっただけなんだ。
「……じゃあ、」
動き出したら止められない。たゆまず流れる川のように、ゆっくりでも確かに動いていく。本当はなんとなく気付いていた。君が僕を想ってくれていること。
「僕と、付き合ってみる……?」
彼女の座る机に両手をついて、上からのぞき込む。至近距離になった彼女と僕の顔。驚いたように見開かれた瞳が僕を捉えて、そして戸惑ったように揺れた。
「た、けるく……」
必死で絞り出したような声が、僕を呼ぶ。ねぇヒカリちゃん。僕は知っていたんだよ。僕が君を想っていることも。君が、好きだなんて言うから、気付いてしまったんだよ。
「……なんて、ね」
引き締めていた頬を緩めて微笑みを作る。ゆっくり顔を離して、彼女を見る。優しい“いつもの”微笑みで。
「冗談だよ」
僕はね、知っているんだよ。君が、僕を想ってくれていること。それから、彼に惹かれていることも。だから、君は僕に言いに来たんだ、僕が君を想っていることを知っていたから。
決められなかったんだよね。
彼と、僕と。
君とは少し違うけれど、僕もそうだから。
「彼はいい人だよ。きっと大事にしてくれる」
弱い僕でごめんね。君を守るって言った僕が、君を追い詰めてる。こんな言葉をきっと君は望んでいないのに。
「ごめんなさい」
どうして君が謝るの。悪いのは君じゃない。誰も悪くない。いつかはこうなるって知ってた。
「ごめんね」
受け入れることも、突き放すことも、祝福することも出来ない僕でごめんね。
傷付けて、傷付いて、僕は
裏切り
彼を裏切るのが怖かった。
君に裏切られるのが怖かった。
だから、自分で自分を裏切った。
全部、自分のための裏切り。
信じられないなら、
裏切るしかないじゃないか
エリカ
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