タケル×ヒカリ
幸せだと私が笑えばきっと、僕も幸せだと君も笑うんだろう。悲しいと私が泣けばきっと、僕も悲しいと君も泣いてくれるのだろう。どちらにしてもきっと、君はいつも私の側で手を繋いでいてくれるのだろう。
「……本当はね、ちょっと悔しいんだ」
あの海に呼ばれた先でテイルモンとアクイラモンがジョグレス進化を遂げた後だ。タケル君が急にそんなことを言い出した。
「ヒカリちゃんに何かあった時は、絶対僕が助けに行くんだって……そう思ってたのに」
そう言って苦笑い気味に見せたタケル君の顔が、寂しそうで、私まで酷く寂しい気持ちになった。
「何もできなかった……何も」
タケル君の、強く握り締めた拳が震える。泣くのを我慢しているかのように唇を噛んで、それでも私を安心させようと思っているのか、笑顔を見せようとするタケル君。その拳に私は自分の手を添え、首を横に振る。
「ヒカリちゃんの手を握ってくれる人が、きっとこれからもっと増えてくよ」
握り締めていた拳から力を抜いて、タケル君は私の手に自分の手を絡める。そっと優しく、とても大切な物のように繋がれるその手が、私は大好きだ。
「それは嬉しいのに、それなのに」
微笑んでいたタケル君の顔が、一瞬歪んで見えた。繋いだ手に力が込められる。タケル君は両手で包み込むように私の手を握った。まるで、ものすごく愛しいものを守るかのように。
「嬉しいって思ってるのは本当なのに、ヒカリちゃんの手を離したくないって思ってる僕がいる。この手を僕以外の誰かと繋いで欲しくないって、そう思ってる僕がいる。すごく勝手で……わがままだ」
そう言いながら、ゆっくりとタケル君は私の手を離す。躊躇いを含んだ瞳は逸れ、前を向いたタケル君はそのまま歩き出した。
さっきまで私の手を包み込んでくれていた手は、タケル君の歩みに合わせて、所在なさげに揺れる。私は立ち止まり、ぼうっとして、その様子を見つめた。
タケル君、ねぇタケル君。こっち向いてよ。どうしてそんなこと言うの。わがままだなんて思わない。勝手だなんて思うわけない。どうして決めつけるの。他の人じゃだめなのに。何ができるとか、そういうことじゃないの。何の役に立たなくたって……ううん、役に立たないことなんて無いの。私はタケル君と手を繋いでいたい。それが全てなの。タケル君、ねぇタケル君!
「ヒカリちゃん?」
歩みを止めた私を不思議に思ったのか、タケル君が振り向く。私はタケル君の方へと駆け足で近付くと、勢いよくタケル君の腕にしがみついた。
「わっ、ひ、ヒカリちゃん!?」
驚きで目を見開いて私を見るタケル君に、こうしていたいのだと私はタケル君の腕を確保したまま、その手を握る。そうして笑って見せれば、少しの間の後にタケル君も優しく手を握り返してくれた。
「そっか」
そう言って誰にともなく微笑んだタケル君を見て、私はとても幸せな気持ちに包まれた。
喜びをください
幸せだと私が笑えば、僕も幸せだと君も笑ってくれるから。涙も悲しみも知って、包み込んでくれる君がいるから。君無しの幸せも悲しみも有り得ないの。
繋いだ手のあたたかさが、優しく優しく私の全てを支配していく。
きっと君は私の、喜びそのもの。
沈丁花
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