丈とミミ(光ミミ前提)
「あたしと付き合ってください!」
「……はい?」
理想−現実+恋心
3年目ともなれば、もうすっかり通い慣れた大学。いつものように授業を終え、帰宅しようと正門をくぐろうとした僕は、突然立ちはだかった少女に心底びっくりした。もちろん急に現れたこともそうだけれど、彼女が口にした言葉があまりにも予期していなかったものだったから。
「ミミ君……なんだって?」
何故ここにいるのかとか、そんなことよりも、彼女が言った言葉の方がよほど気になって思わず問い返す。
「あたし、丈先輩が好きなの。だから私と付き合って!」
爆弾発言をなんなく言ってのける彼女に、僕達の周囲に居た人達がざわめく。そんな大声で言わなくても……。
「わ、わかった、とりあえず場所を変えよう……!」
そんな周りの視線に耐えきれなくなって、慌てて彼女の手をひき、近くの喫茶店へと駆け込む。いらっしゃいませーと近付いて来た店員に人数を告げると、隅の席に案内される。
「ご注文はお決まりですか?」
マニュアル通りな店員の問いに、僕がアイスティーを注文すると、席についた途端メニューを広げていた彼女が顔をあげる。
「あたし、フルーツパフェとあんみつとクリームソーダ!」
そんなに食べるの!? と驚愕している僕をよそに、店員は注文を繰り返すと、それで良いことを確認し去っていった。
「あ、そうだ、丈先輩」
「ん?」
今度は何だと思いながら、彼女を見ると、僕と目があった彼女はにっこり笑う。
「あたし、お金持ってないです」
「……!?」
思わず目を見開いて彼女を見る。そんな僕を見ても、全く気にする様子もなく、彼女はまた口を開く。
「だって……いい女は現金なんて持ち歩かないものだわ」
「なんだい、その理論」
そんな法則知らない……というか、自分で自分を「いい女」と評してしまえる彼女は凄い。それが自惚れに聞こえないところもまた凄い。……始めから奢ってもらうつもりで盛大に注文する度胸も、ある意味、凄いけれど。
「わかったよ、最初から奢るつもりだったしね」
仮にも連れ込んだのは僕なわけだし、僕は彼女より2つも年上だ。彼女に払わせるつもりは始めから無かった。苦笑い気味に言うと、彼女は瞳を輝かせて「丈先輩、大好きーっ」なんて言って笑った。確かにこれなら現金持ち歩かなくても大丈夫かもしれない。
そうこうしているうちに店員が注文品を運んできて、全て揃っていることを確認すると伝票をおいて去っていく。待ち構えていたようにパフェを食べる彼女を見つつ、僕も注文したアイスティーを一口飲む。
「それで」
しばらく談笑しながら、彼女がパフェを食べ終えた頃を見計らって話を切り出す。
「さっきのは何だったんだい?」
さっきの? なんて首を傾げてとぼける彼女に溜め息をひとつ。
「付き合って、とか言ってたじゃないか」
「もちろん愛の告白よ?」
やっぱりそういう意味だったのか……とそれで納得するわけにもいかない。
「ミミ君は光子郎の彼女じゃないか」
そう。彼女には光子郎という、れっきとした彼氏がいるのだ。正式に恋人同士になった時は、はにかみながらも光子郎から報告を受けた。
「……光子郎君は、あたしのことなんてどうでもいいのよ」
ぽつりと呟いた彼女は、拗ねているというより泣きそうに俯いて、けれどすぐに顔を上げると澄まし顔でそっぽを向いた。
「丈先輩みたいな人の方が優しいし、大人だし、それにきっと私のことも大事にしてくれるもの。私、丈先輩が好きよ」
魅惑的な女性の笑みで言う彼女に、不覚にもドキリとする。けれどそれはあくまで一瞬のことで、やはり彼女に友人以上の感情は湧かない。もしくは可愛い妹だ。もう少し前なら、多少は心が揺れたかもしれないけれど。
「僕もミミ君が好きだよ。妹みたいに可愛いし、大切な仲間だ」
微笑んで言葉を返せば、さも納得いかないという風に彼女が膨れ面を作る。
「うん、そっちの顔の方が可愛いよ。ミミ君らしい」
そう言うと、彼女は更に膨れて側にあったクリームソーダを飲み干した。
「茶化さないでよ、先輩! あたし本気なんだからね」
ムキになればなるほど、子どもっぽさが露わになる彼女をみて笑う。そんな僕を見て、彼女は「もーっ!」と焦れったそうに拳を机にぶつけた。
「ごめんごめん、茶化したつもりはないんだ。ミミ君の気持ちは嬉しいよ」
ぱあっと彼女の顔が明るくなる、それを見て軽く苦笑する。
「けど、僕はミミ君を恋人として好きにはならない。第一、僕には彼女がいるしね」
言った途端、彼女は大きな目を更に大きくして
「嘘!?」
と心底、驚いたように叫んだ。
「嘘じゃないよ」
「い、いつのまに!?」
「いつ、かなあ? けっこう前だけど」
「信じられない」
「それ失礼だよ、ミミ君」
何事かを考えるように、ぶつぶつと独り言を言っていた彼女だったが、やがて困ったように眉を下げて僕を見つめた。
「それなら、あたし困らせちゃいましたよね?」
少しばかり申し訳なさそうに、上目遣いで彼女が言う。
「いや、大丈夫だよ。久々にミミ君と話せて楽しかったし」
軽く笑んで答えると安心したように息をつく。こういうところが素直で憎めない。
「光子郎と何かあった?」
「それは……」
気まずそうに視線を逸らす彼女。僕も問い詰めることはせず、次の言葉を待つ。
「なんでもない、ちょっと喧嘩っていうか……あたしが勝手に不安になっただけなの」
微かに苦笑して溜め息を吐く彼女に、僕も苦笑を返す。
「光子郎君が、そういう人だってわかってるはずなんだけど」
彼女の言う“そういう”がどういったものなのかは解らないけど、彼女は彼女なりに寂しさを感じているのかもしれない。彼は愛情表現が得意な方ではないから。
「あたし、丈先輩みたいな人を好きになりたかったな」
「それはありがたいね。でも、光子郎が好きなんだろう?」
軽い調子で僕が聞くと、少し間を置いた後に「うん」と恥ずかしそうに彼女は頷いた。
「なら仕方ないね」
そんな彼女は確かに恋する女の子で、結局、彼女は彼が好きなんだなぁと思う。
「好きならどうしようもないね。自分の理想と違っていても、思うようにいかなくても」
それでも嫌いにはなれないのだから、恋というのは本当に厄介だ。
「……うん、ぜーんぜん相手してくれないし、ちっとも恋人らしい言葉は言ってくれないけど、でも」
そこまで言って、さっぱりしたように彼女は僕を見た。
「あたし、やっぱり光子郎君が好きみたい」
「ありがと、丈先輩」と笑った彼女は今日見た彼女の中で、一番綺麗で、一番ミミ君らしかった。
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光ミミと丈先輩は仲良しだといい
なんかある度、丈先輩に相談してればもっといいと思うよ
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