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タケル×ヒカリ
 世の中には仕方のないことが沢山あって、それはどうしようもないことで。
 私の思いとか誰かの気持ちとか、すべて100パーセント伝わるなんて、そんなこと有り得ないでしょう?









「いいよね、ヒカリちゃんはー」
 放課後の教室。中学の制服姿もだいぶ様になってきた京さんが、溜め息と共に言った。

「……何がです?」
 教室で日誌を書いていた私は、たまたま側を通りかかったから寄ったという京さんを待たせつつ、顔をあげず問うた。

「優しい彼氏がいて」
 その言葉に、一旦文字を書く手を休め彼女を見た。続いて、困ったような笑みを作って見せる。

「急にどうしたんです?」
 首を捻って問えば、小さな唸り声を出して京さんは黙ってしまった。

「賢君だって優しいじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどね」
「何かあったんですか?」
「ううん、至って普通」
 なら良いじゃないですか、と笑いかけてみても、京さんは煮え切らない相槌を打つばかり。何か悩んでるんだろうなって思うけれど、どこまで踏み込んで良いものかわからない。

「羨ましいな、ヒカリちゃん」
「どうして?」
「……なんとなく」
「なんですかそれー」
 互いに互いの領域に踏み込まない。二人共、微妙なバランスを保って会話している。例え話を聞いたとして、彼女の気持ちに同調できるかといえば微妙なところだ。

「隣の芝生は青い、ってやつなのかしらね……」
 溜め息をついて苦笑する京さんに、私も小さく苦笑いを返す。

「さてと、あたし帰るね」
 それで気がすんだのか、京さんはスッと立ち上がると鞄を持ち、扉へと向かった。そうして扉を出る際に此方を振り向くと

「やっぱ羨ましいよ、ヒカリちゃん」
 と、悪戯っぽい笑みを見せて、手を振り教室から去っていった。
 なにが、と言おうとしたものの既に遅く、京さんはそそくさと帰ってしまっていた。軽い溜め息を吐き、諦めてまた日誌を書こうと下を向いた時だった。

「まだ残ってたんだね」
 教室の扉が開き、見知った顔がのぞく。

「……うん」
 先程まで話題にのぼっていた人物もとい、私の恋人だ。

「手伝うよ」
「え、いいよっ、大丈夫!」
「なに遠慮してるのさ」
 そう言って、さっさと黒板掃除を始める彼。まだ残っている仕事をすぐに見つけてフォローしてくれる彼は、とっても気配り上手だと思う。だけど、ほんの少し拗ねた気持ちになってしまうのは、どうしてだろう。

「大丈夫なのに……」
「迷惑だった?」
「そういうんじゃな……っわかってるくせに!」
「あははは、可愛いなぁヒカリちゃん」
 いつもこう。私より一枚も二枚も上手をいく彼には敵わない。

「ね、ヒカリちゃん」
「なに?」
「なんかあったでしょ?」
「え?」
「悩み事?」
「…………」
 ほら、いつもこうやって見透かすような瞳と問い掛けで、私の中のもやもやまで見抜いちゃうの。本当に敵わない。

「なにもないよ」
「……言いたくないならいいけど」
 少し落ち込んだ様子の彼に、慌てて首を振り反応を返す。

「別に言いたくないとかじゃなっ……」
「やっぱり何かあったんだね」
 先程までの落ち込んだ様子が嘘みたいに(実際、演技かもしれないけれど)にっこり笑って彼が言う。そう言われてしまえば、私はもうお手上げ状態で。その笑顔に観念して、浅い溜め息を吐くと、私はゆっくり話をはじめた。







貴方は偽れない
(どうしてか貴方にはバレちゃうのよね)







鉄砲百合


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賢君とタケル君の優しさは、ちょっと種類が違うんじゃないかと思うのです。


あきゅろす。
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