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シュウとハルカ
※この話はアニメの『ヒカリvsハルカ』の後のことを、想像して書いたものです。なので多少のネタバレ要素を含みますので御了承ください。















 パチ、パチ、パチ
 船から降りると同時、側で小さな拍手が起こった。足下を見ていた視線を、そちらに向ければ、軽く微笑んだ一人の少年。

「シュウ……」
「準優勝おめでとう、ハルカ」
 立ち尽くす私の方へと、彼はゆっくり歩を進める。どうしてだか動けなくて、私は近づいてくる彼の姿を、ぼうっと眺めていた。

「長旅だったね」
「まぁ、ね」
 私の隣まで来ると彼は立ち止まり、当たり前みたいに私の荷物を持ち帰路へと私を促す。重い足をゆっくりと動かし彼の後を追う。私が追いつけるように歩を緩めて歩く彼の背中をみながら、走って隣に並ぶことも出来ずに、私は言葉を一つ投げかけた。

「言わないの?」
 言って視線を地に落とす。こんなこと聞いて、自分はどうするつもりなのだろう。

「何を?」
 変わらぬ調子で歩き続ける彼は、気にしてなどいないというように問い返す。私の言いたいことも気持ちも全部わかってるくせに、知らないふりをするのだ。そういう人だ、彼は。

「……美しくないね、って」
 立ち止まる私を予期していたかのように、彼が此方を振り返る。夕暮れ時の太陽が、端正な彼の顔立ちをより美しいものへと変化させる。

「言わないよ」
「どうして?」
「……言ってほしいのかい?」
「そういう意味じゃないかもっ」
 ふ、と小さく笑い声を漏らした彼が、ゆっくり近付いて、私の目の前に立つ。昔は同じくらいだった目線も、今では私が見上げなければならなくなっている。だけど今、私の瞳には地面ばかりが映っていた。

「わかってるよ」
 そう言って優しく私の頭に手を置き、くしゃくしゃと髪を撫でた。

「わかってるから、ハルカ」
 彼は、それ以上何も言わなかった。だけどその声音も、頭に置かれた手も、感じる視線も、周りの空気でさえ、なによりも優しく私の想いを包み込んでくれているようで、堪えきれなくなって私は、とっさに彼のシャツの裾を握り締めた。

「泣いてる?」
「……泣いてなんかない、かも」
 苦笑まじりに息を吐く音が聞こえる。それでも私の頭に置かれた手は離れる気配がなく、それが少しだけ嬉しかった。

「シュウ」
「うん」
「負けちゃったかも」
「うん」 ギュッ、裾を握った手に思わず力が入る。胸を借りたりなんかはしない。だけど、今この手を離すことは出来なかった。

「とっても楽しかったの」
「うん」
「でも、負けちゃった」
「うん」
「……悔しい、かも」
「……うん」
 言ってしまって、はじめて涙が出た。
 素敵なコンテストだった、それは本心で嘘なんか混じってない。負けた後の笑顔も言葉も全部、偽りなんかじゃない。だけど悔しくないわけない。

「結果は結果でしかないよ」
 不意に彼の手が離れ、かと思うとそっと私の頬へとその感触が移る。びっくりして顔を上げると、いつものキザな笑顔に少しだけ優しさを含んだ笑顔の彼と目が合う。

「優勝することそれ自体が美しいわけではないさ。こうして純粋に悔しがるハルカは、僕にはとても美しいものに見えるけど?」
 そんなキザったらしい台詞を、当たり前みたいに吐く彼に少しだけ面食らいながら、それでもどこか勇気付けられたように涙はピタリと止まった。

「……ありがと」
 彼のシャツを握っていた手を離して、頬に当てられた手に重ねる。そのまま目を閉じて、私はもう一度「ありがとう」と呟いた。




君の悲しみに寄り添う






「おかえり、ハルカ」
「ただいま、シュウ」








竜胆



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