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はちいち
※)念の為!
オールキャラですが、この話では光ミミ、太空要素をほんのり含みますので、苦手な方はご注意ください。















 三つ子の魂百まで、とは良く言ったものだと思う。一度形成された性格というか性分はどうしようもないらしい。

「暑い……」
 八月一日、午前9時20分。夏も本番に入ってきたころ。朝とはいえ、こうして外に立って居ると、日陰に居ても暑い。あらかじめ家から持って来たペットボトル(もちろん中には冷やした水が入っている)を取り出し、既に残り少なくなった水を飲み干す。

「……そろそろかな」
 近くにあったゴミ箱にペットボトルを捨てると、腕時計に目を落とし呟く。

「しかし本当に暑いなぁ」
 何度目かわからない呟きを吐きながら地球温暖化は著しいなとぼんやり思う。これでは熱中症で倒れる人が続出しても無理はない。日頃クーラーの効いた部屋に居るうえ、運動不足な現代人は尚更かもしれない、もちろん僕も含めて。

「何を考えてるんだか」
 人間は考える葦である、とは誰の言葉だったか。どんな状況にあっても案外、思考というのは活発に働くものかもしれない。

「悪いっ、遅れた!」
 そろそろ本格的に思索にふけりそうになった時、息を切らした男の声が耳に入り、ふと顔をあげる。

「バイトが長引いて……って、なんだよ、丈ひとりか?」
 先程までぼうっとしていた思考が、だんだんと覚醒してくる。ああ、やはり暑さでダメージを受けていたらしい。日に輝く金髪が目に入り、やっとこさ相手を認識する。

「……。ああヤマトか」
「待てこら、なんだよ今の間は」
 少し呼吸も落ち着いてきたらしいヤマトが、的確な突っ込みをいれる。

「ヤマトがかっこよくなってて、一瞬わからなかったんだよ」
「嘘付け。お前すげー、ぼーっとしてたろ……まぁ遅れた方が悪いけどさ」
 一応、悪かったとは感じているらしい。頭を軽く掻いて、ヤマトは少し視線をさまよわす。

「予想はしてたさ。毎年のことだし」
「お前、集合時間は早めにしようって言って譲らなかったもんな」
「だって、タケル君たちとの待ち合わせに遅れるわけにはいかないだろう?」
「あー……まあな」
 毎年のことながら、タケル君や伊織君たちの若い(といっても大して変わらないが)メンバー達とは別に、僕ら初期のメンバーだけで先に集まり集合場所に向かうことにしている。別に何か意味があるわけではなく、なんとなくそうなっているだけだけれど。

「それにしても待たされるとわかってて早く来るよな、丈って。らしいといやらしいけど」
 僕のいる日陰に入ると、苦笑しながらヤマトは言った。

「それについては僕も考えたんだよ」
 どうせみんな遅れてくるだろうから集合時間ギリギリでも問題ないだろう、と。

「でも、気付いたら集合時間10分前に着いてたんだよね」
 そうして冒頭の思考に戻るわけだ。要するに予定時間に遅れるのが落ち着かないのだ。

「ま、待たすよりいいかなと」
 苦笑混じりに溜め息をつくと、ヤマトも成程なと笑う。そうして、やっぱお前らしいな、と言葉を続けた。

「そろそろ半になるし、光子郎たちが来るんじゃないかな」
 大抵いつもその順だ。僕が来てヤマトが来て、光子郎とミミ君、最後に太一と空君。

「光子郎も大変だよな、すっかりミミちゃんのペースだし」
「あら、失礼しちゃうわ」
「!」
 ぽつりと言ったヤマトの言葉に応答して返って来た声に、驚いて目を向けるとまさに話題の人物であったミミ君が立っていた。相変わらず可愛らしい容姿をしている。その後ろから僅か遅れて光子郎が走って来る。

「待ってくださいよ、ミミさん」
「遅いわよ、光子郎君。待ち合わせ時間過ぎてるんだから!」
「髪型が決まらないとか言って待たしたのはミミさんじゃないですか!」
「わかってるわよ、ちょっとした冗談じゃない」
 二人の掛け合いも相変わらずだ。
 少しばかり不服そうに眉を顰めていた光子郎だったが、ミミ君と一言二言、言葉を交わすと、仕方ないといったように表情を緩めた。結局のところ、仲が良いのだ。

「遅れてすみませんでした。もう全員揃って……はいないみたいですね」
 ミミ君との会話を終えると、光子郎は律儀に謝罪しながら頭を下げ、改めてメンバーを見回すと足りない人物がいることに気づいて苦笑した。

「あとは太一と空だけだな」
 ヤマトが確認するように言う。続けて、何やってんだあいつら、と小さく呟く。太一とも空君とも近しいヤマトだ。他の人より気になるのかもしれない。

「空さんが遅刻って珍しいー」
「おそらく太一さんを待ってるんだと思いますよ」
 ミミ君の呟きに反応して、光子郎が答えを返す。言う通り、空君ひとりなら遅刻することは皆無に等しい。けれども毎年、遅れてくるのはいつも太一が理由だった。

「空も苦労するよな」
 拗ねたような呆れたような声音でヤマトが言葉を発する。彼は彼なりにいろいろ複雑なんだろうなとぼんやり思う。太一と空君が、所謂そういう関係になってから随分と経つが、親友に彼女が出来る(しかも相手が相手だ)とは、なかなか大変なのではないだろうか……なんて、僕には良くわからないのだけど。

「あ、あれじゃない? おーい、空さーんっ」
 ミミ君が指差した先には、すっかり大人びた空君。人違いではないことを確認したミミ君は、嬉しそうに手を振りながら駆けていく。あの頃から姉のように空君を慕っていたけど、それは今も変わらないようだ。

「嬉しそうだね、ミミ君」
「…………そうですね」
 手を取り合って談笑する女の子二人を見つめ僕が呟くと、なぜかつまらなさそうに光子郎が相槌を打つ。

「空さんと居る時のミミさんって、本当に嬉しそうで、僕に見せる笑顔とはまた違う顔で笑うんですよね」
 少しだけ切なげな光子郎に、なんだか驚く。そうして、ああもう子供じゃないんだなぁなんて、しみじみ思う。だって隣に立つ光子郎は立派に男性の表情だ。

「あの光子郎がねぇ……」
「は?」
 思わず声に出した言葉に、光子郎が訝しげな視線を向ける。

「一人前に妬きもちやくようになったなんてね」
「なっ、別に妬いてませんよっ」
「え、そうかな」
「そうです」
 頑として妬いてないという光子郎、だが赤く染まった頬が否定しきれていない。軽く笑いながら、とりあえず光子郎の言う通りにしておいた。まだ子供っぽいところも残っているかな、なんて思いながら。

「太一はどうしたんだ?」
 ミミ君と手を繋ぎながら近付いてきた空君に、ヤマトがすかさず問い掛ける。

「ああ、太一ならもうすぐ来ると思うわ」
 そう言った空君の背後にぬっと影が現れる。続いて、僕らの良く見知った顔、つまり太一が疲れた顔で立っていた。

「空……鬼かお前は」
 開口一番に太一が言った言葉に、彼を良く見ると、なにやらスーパーの袋と可愛らしい鞄を持ち、なんとも大荷物だ。

「失礼ね! でも、ご苦労様。あ、みんな、太一が持ってるスーパーの袋に飲み物入ってるから、良かったら飲んで?」
 見れば、人数分のペットボトルが入った袋を重たそうに提げている。この後合流予定の子供達の分もあり、気がきくといえばそうだが、この暑さの中で運ぶのはなかなか大変だっただろう。

「わざわざ悪いね」
「気がきくじゃん、空」
「ありがとうございます」
「わーい、あたしオレンジ!」
 口々に空君へとお礼を述べると、空君は軽く笑って首を横に振った。

「大遅刻のお詫びよ、ごめんなさいね。太一ったらなかなか起きないんだもの」
 そう言って申し訳なさそうに頭を下げる。光子郎もそうだったが、良くできた恋人だと思う。なんというかバランスがとれている、というのか。

「おい……お前ら運んだ俺には何もねーのかよ」
 不服そうに太一が口を開く。遅れた原因を作ったのは太一だとはいえ、まぁ確かに大変だっただろうし労いの言葉くらいかけてやろうと口を開きかけた僕より先に、空君が太一の耳を引っ張って言った。

「あんたが寝坊したのが悪いんでしょ! 謝りなさい!」
 はっきりとした空君の言葉に、太一も何も言えなくなったのか、低く唸る。

「わかってるよ……遅れてわるいな」
 少しの間の後に、渋々といった様子で太一が謝る。おそらく謝ることより、空君に叱られたことの方に拗ねているんだろうなぁ、なんて思って少し笑う。恋をすると女は可愛くなる、って言うけど男だって例外じゃない気がする……可愛いってのはおかしいかな?

「なにボケッとしてんだよ、丈」
 呼び掛けられてハッと現実に戻る。危ない危ない、ついまた思索にふけりそうになっていた。

「なんでもないさ。みんな揃ったし行こうか」
 慌ててそう言うと、みんなも同意する。さっきまでふてくされていた太一も、やはり楽しみならしく嬉しそうに荷物を持ち直した。

「あいつら、もう集まってるかな?」
「お前みたいに寝坊してなきゃな」
「っうるせーな、ヤマト」
 嬉々として言う太一に、すかさずヤマトが応じる。相変わらず仲がいい。

「京ちゃんもヒカリちゃんも可愛くなったんだろうなー」
「もう高校生だものね」
「わぁ早く会いたいなっ」
 きゃっきゃっとはしゃいだ様子のミミ君に、優しく微笑みながら空君が相手をする。お喋りに花を咲かす姿が可愛らしい。

「間に合いますかね?」
「ま、ギリギリってとこかな?」
「結局こうなるんですね」
 と苦笑した光子郎に僕も苦笑を返す。
 それでもお互いに、わかっている。メンバーがこうして集まったことへの喜びを。それは集まったみんな感じていることなのかもしれない。



 どんどん大人になっていく僕ら。
 去年から今年へ、今年から来年へ。
 こうして集まれるのも、いつまでかわからない。止める期限を定めているわけではない、けれど永遠を誓ったわけでもないから。


「お! あれじゃねーか?」
「ほんとだ、おーい!」
 少し先にタケル君達やパートナーが居るのが見え、気づいた太一が指差す。その方向にミミ君が手を振りながら、駆け出して行く。追い掛けるように皆、自然と早足になっていく。



「よしっ、じゃー今年も行くかー!」
 太一の元気な声が空に響いた。







 今は、まだ。
 ぶつかる壁を恐れないで、互いに笑いあいながら歩もう。知らないことに出会っても、手を取り合える仲間がいる。まっすぐ、ただまっすぐに、信じた道を進んでいこう。




 ―――未来を担う僕らだからこそ








―――――――
遅ればせながら、祝8/1!


あきゅろす。
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