タケル×ヒカリ
――好きだよ
聞き慣れているはずの声は
初めて耳にするかのように
いつも見ているはずの顔は
まるで知らない人のように
不思議
まるで
君と初めて会ったみたいなの
「はい、そこまで」
シャーペンを走らす音だけが響く教室に、落ち着いた教師の声。せわしなく動いていた生徒達の手が止まり、テスト用紙を集める間の微かなざわめきは次第に大きくなっていく。
(できた?)
(まぁまぁかなぁ……)
(最後の問題わかんなかったー)
(難しかったなー)
口々に感想を述べる生徒達の、不安と安堵の入り混じったお喋りの中で、私の意識は別の所にあるようだった。
――好きだよ
不意に思い出す声と顔。
言葉を発した人物は、窓際の自分の席に座り、周りに居る友人と笑い合っている。
私がこんなに心を掻き乱されてるの、わかってるのかしら。
(どうしたらいいのかなぁ……)
片頬を机にくっつけるようにして、ぼんやりと物思いにふける。
今朝、告白された。
相手は見知らぬ男の子……だったら、まだ良かった。
(タケル君……)
ずっと一緒に居た男の子。
あの冒険から何年も経った今でも、側に居て、いつも優しく私を支えてくれた。
「わかんないよ……」
好きか否かと聞かれれば、好きなんだと思う。でも、それが愛とか恋とか名のつくものかと問われれば、それは怪しいところだ。
「考え事?」
悶々と自問自答する私の頭上から、覆い被さるような影と共に声が降ってくる。
「……誰のせいよ」
見上げた先の金髪少年は、まるで何事もなかったかのように微笑む。その笑顔に、今朝のことは錯覚だったのではないかと自らの記憶を疑う。
「うーん、僕のせいかなぁ」
何が楽しいのだろうか、笑顔を絶やさない彼は何を思っているのか予想できない。
私は、知っているようで本当は何も知らないのかもしれない。彼のこと。
「タケル君って意地悪だね」
私は彼の事がわからないのに、きっと彼は私の気持ちをわかってる。わかってて遠回しな言い方をするんだ。
「ヒカリちゃん」
「……何」
「可愛いね」
「………」
開き直ったと言うべきか、もうなんだか本当に知らない人みたい。
「……嬉しくないもん」
「そう?」
「そうよ」
「そっか」
ガタッと音をさせて、彼が私の前の席に座る。横向きに座って、何かを考えているかのように窓の方へと視線を向ける彼をジッと見つめる。
「……………」
「……………」
ざわざわと人の話し声で溢れる教室で、私達の間だけに奇妙な沈黙。
「……タケル君って」
私の言葉に彼が此方に視線を向ける。私はまだ彼を見つめたまま。
「かっこいいんだね」
「…………」
私の言葉に、狐に抓まれたような顔をして、二、三度まばたきをしたかと思うと
「あー……ヒカリちゃん?」
と、体全体を此方に向けて、今度は彼が私を見つめる。心なしか顔が赤いのは気のせいだろうか。
「本当にそう思ったんだもの」
いつも見ていたはずの顔。
改めて見つめてみると、昔よりも凛々しくなった気がする。真っ直ぐで綺麗な金色の髪、優しげな瞳、スッと通った鼻筋、形のいい唇。全てが、初めて見るかのようで。
心臓が跳ねた。
おんなじなのに違う。
今まで見ていた彼とは違う。
確かにずっと一緒に居たのに。
私は“また”彼に出逢ってしまった。
「ヒカリちゃん」
「……何?」
「好きだよ」
「……うん」
好きか否かと聞かれれば、好きなんだと思う。でも、それが愛とか恋とか名のつくものかと問われれば、それは怪しいところ。
だけど、だけどね。
「嬉しいな」
昨日までとは違う、彼に対する新しい「好き」が芽生えてるのわかるから。
「ありがとう、タケル君」
ゆっくり育てていってもいいでしょう?
――あなたと二人で
────────
「君が好きだよ」続編のつもり
最初の構想とだいぶ違う結末になりました。あれれ?
キャラ違う気がしなくもない。
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