タケル+パタモン
※タケルくん高校生くらい
※パートナー同士は一緒に暮らしてるし、デジモンは普通に外に出て生活できてる設定だけどあんまり細かいことは考えずに読むのがおすすめ
「タケルくん」
「ああ、ヒカリちゃん。来てくれたんだ」
「ええ、いいものくれるって言うから」
冗談めかして笑う彼女に僕もつられて笑う。
机の横にかけておいたカバンから手のひらに乗るくらいの袋を取り出して彼女に手渡す。中には様々な味の飴玉を入れてある。
「言ってくれれば僕から届けたのに」
「いいの。ちょうどタイミングがあったから」
昨夜のうちに送っておいたメールで、時間があったら渡したいとだけ伝えておいたからわざわざ取りにきてくれたらしい。
「好きだといいんだけど」
「大丈夫よ。でもどうしたの急に」
袋の中身を確認しながら、彼女が首を傾げる。
「パタモンのために買ったんだけど、さすがに食べきれなくて。まだ家に沢山あるから、欲しかったらあげるよ」
「ええ? そんなに買ったの?」
「なんか最近パタモン夢を見るらしくてさ」
「夢?」
「そう、昨日は飴の雨が降る夢だったんだって。だから飴玉たくさん買って再現してあげたら大喜びでさ」
昨日のパタモンの様子を思い出して思わず口元が緩んだ僕を見て、ヒカリちゃんが呆れたように笑う。
「楽しそうでいいわね」
「うん、一昨日はマシュマロの布団で眠る夢で、その前は板チョコの滑り台だったんだ。滑り台は無理だったけど、マシュマロの方は袋に詰めて枕にしてみたよ。ふわふわだねなんて喜んでたと思ったら、次の瞬間には寝息を立ててて笑っちゃった」
笑いながら話す僕につられてか、ヒカリちゃんもふふっと笑い声を漏らした。
「かわいいわね」
「でしょ?」
「ちなみに今日は?」
「ゼリーのプールだって。さすがに難しそうだから、なんとか泡風呂で手を打てないか考えてるところ」
「泡風呂に入りながらゼリーを食べるとか?」
「うーん、検討の余地はあるかもね」
「タケル君も大変ね」
くすくすと笑うヒカリちゃんに「まあね」と返しながらも満更でもない気持ちで微笑んだ。
「それにしてもパタモンってば本当にお菓子が好きなのね」
「あー……うん」
「どうしたの?」
歯切れの悪い僕に不思議そうにヒカリちゃんが問いかける。
「いや、それでちょっと思い出したことがあって……」
「?」
首を傾げるヒカリちゃんに僕は昨日の放課後にあった出来事を思い出しながら話す。
「実は昨日の帰りにお菓子を買いにスーパーに行ったら、ミミさんとパルモンに会ってさ」
***
「あら、タケル君じゃない?」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、これまた覚えのある顔に自然と笑顔になる。
「ミミさん。こんばんは」
「あたしもいるわよ!」
ミミさんの後ろからひょこりと顔を出したのはパルモン。僕のところからだと隠れていて見えなかったけれど、一緒に買い物をしていたようだ。
「パルモンもこんばんは」
「こんばんは。タケルもお菓子を買いにきたの?」
パルモンに聞かれてこくりと頷く。
「飴玉を買いに来たんだ。パタモンの夢を実現しようと思って」
「夢?」
「うん。飴の雨が降る夢を見たんだって。だからそれを家でやってみようかなって」
「たのしそうね!」
そう言ってパルモンは弾んだ声で両手を合わせる。僕たちの会話を聞いていたミミさんもうんうんと頷いて
「私たちもやってみる? パルモン」
と飴玉の袋を手に取りながらパルモンに尋ねた。
「いいの!?」
「もちろんよ」
「嬉しい! ミミだーいすき!」
「私もよパルモン!」
完全に二人の世界に入ってしまったミミさんとパルモンを、それでも微笑ましい気持ちで眺めていると、ふと僕の存在を思い出したのかミミさんがコホンと一つ咳ばらいをした。
「それにしても夢にまで見るなんて、パタモンってば本当にお菓子が大好きなのねー」
「そうですね。ハマっちゃったみたいで」
「ねえ、パルモンも何か夢を見たりするの?」
「ええ、見るわよ」
パルモンの返事にミミさんが瞳を輝かせる。
「ええー! どんな夢!?」
「うふふ、あたしは毎日ミミの夢を見てるわ」
「え、私?」
「そうよ。ミミと一緒にお出かけしたり、お昼寝したり、おしゃれしたり、おいしいもの食べたり他にもたーくさん。だってね……」
両手を大きく広げて説明した後、パルモンは少し照れくさそうに口元を隠しながら言葉を続ける。
「あたしはミミのことが一番大好きなんですもの」
「パルモン〜! 私もパルモンが一番大好きよ!」
そう言ってミミさんがパルモンを抱きしめて、また二人の世界に入ってしまった。
***
「……っていうことがあったんだ」
一通り説明し終えた僕に、ヒカリちゃんは再び首を傾げる。
「微笑ましい光景じゃない」
「うん、それはそうなんだけど」
「それの何に引っかかってるの?」
「うーん」
言い淀む僕。
「言いたくないなら聞かないけど」
「いや……」
「もう、煮え切らないなぁ」
「女々しいって言わない?」
「内容によるわね」
ズバリと切り捨てるヒカリちゃんに「だよね」と観念して理由を話し始める。
「パタモンの夢に僕が登場したって話を一度も聞いたことないんだ」
「え?」
「パルモンはミミさんの夢を毎日見るんだよ? それはミミさんのことが一番好きだから……ってことはさ」
しばらく逡巡して、やっぱり同じ考えに辿り着く。
「パタモンって僕よりお菓子の方が好きなのかな!?」
「……はぁ」
呆れとも返答とも取れるような言葉を返してヒカリちゃんがチラリと黒板の上にある時計へと視線を逸らす。
「そろそろお昼休み終わりそうだから戻るわね」
「えっ、そんな僕の悩みは!?」
「わからないけど大丈夫だと思う」
「適当すぎない!?」
わめく僕にヒカリちゃんは溜め息を一つ吐いてから、改めて返事をする。
「大丈夫だと思うのは本当よ。でもそんなに心配なら直接パタモンに聞いてみればいいのよ」
それだけ言い残すと軽く手を振って、ヒカリちゃんは自分のクラスへと帰ってしまった。
「直接聞く、かぁ」
手を振り返しながら小さく呟く。確かにこのままモヤモヤしていても仕方ない。聞いてしまうのが一番早い解決法だし、パタモンならちゃんと答えてくれると思う。
(でもなぁ……)
それでもしもお菓子の方が好きって言われたらどうしたらいいんだろう……いや、さすがにそんなことはない、はず……だよね?
残りの授業を受けている間もそんなことを悶々と繰り返し考えていたら、あっという間に放課後になってしまっていた。
***
「たける〜!」
部活も終わって校舎から出てきた僕に頭上から声がかかる。
「パタモン! 迎えに来てくれたの?」
とっさに上を見上げると、校門の近くにある木の上から僕を見つめるパタモンと目が合った。
「うん。さっきまでテイルモンと遊んでたんだけど、ヒカリが来たから先に帰っちゃった」
「そっか、待たせてごめん」
「だいじょーぶだよ。あのね、ヒカリがね『タケルくんのこともかまってあげてね』って言ってたよ。どういう意味だろー?」
「えっ! あはは、どういう意味だろうね……」
ヒカリちゃん……叫びたい気持ちを心の内で抑えながら、パタモンに向かって両手を広げる。
「帰ろっか、パタモン」
そう声をかけると「うん!」と嬉しそうにパタモンが僕の腕の中に飛び込んでくる。両手でパタモンを抱っこしながら帰路へと歩を進める。
「テイルモンにね、どの飴が一番おいしいか教えてあげたんだ。タケル、今日ヒカリに飴あげるって言ってたよね?」
「うん、ちゃんと渡したよ」
「喜んでくれるといいね」
「そうだね」
キャッキャッと笑うパタモンを見ながら、昼間にヒカリちゃんに言われたことを思い出す。
「ねぇ、たけるー。今日もお菓子買いに行く?」
「ん? うん……」
「やったあー!」
「あのさ、パタモン」
「なぁに?」
ピタリと足を止めて畏まった僕に、パタモンが不思議そうな視線を向ける。
「パタモンはさ、お菓子が好き?」
僕の質問に最初はきょとんとした顔をしていたパタモンだったけど、すぐに笑顔になって
「うん! だいすきだよ!」
と元気の良い言葉が返ってきた。
「そうだよね。じゃあさ、その……」
続く言葉にやっぱりためらいを感じて口をつぐむ。
「たける?」
言葉に詰まった僕を心配そうにパタモンが見つめている。
「だいじょーぶ?」
そう言いながらパタモンはよしよしと慰めるように僕の頬を撫でる。撫でているというよりは、傍から見るとペチペチと叩いているようにも見えるかもしれない。
第三者から見た僕たちの姿を想像すると、なんだかその様子が可愛くて思わず吹き出してしまった。
急に笑い出した僕にびっくりしたようでパタモンが目をぱちくりさせる。そんなパタモンに、僕も安心させるように頭を撫でる。
「いきなりなに〜!?」
「ごめんごめん。ちょっとね」
「変なたけるー」
「はは、お菓子買いに行こうか」
まだ釈然としない様子ながらも、僕のお菓子の言葉につられたのかパタモンはそれ以上追及することもなく僕の頭の上に移動する。そして
「しゅっぱーつ!」
まるで車掌のように号令をかけるとそのまま僕の頭上でくつろぐ。
「自分で歩くか飛ぶかしてもいいんだよ?」
「えーやだー」
「まったく……」
言いながらも口元が緩む。なんだかんだで僕もこれが一番落ち着くんだよなあ。
「そういえばタケル、なにかボクに聞こうとしてなかった?」
「ん? うーん……パタモンはお菓子の中で何が一番好きなのかなって」
「えー!? むずかしい質問だね」
なんだろう……と考え込んでしまったパタモンを見て、気付かれないようにくすりと笑う。パタモンの小さな手で撫でられたら、なんだか妙にスッキリしてしまった。
(パタモンが僕よりお菓子が好きでもいいや)
僕がパタモンのこと一番好きだから、それでいいや。
こうして一緒に居られて、パタモンの好きなものを一緒に楽しめて、それ以上に幸せなことってない。
これ以上なんて望まなくても僕は十分だ。
「うーん、やっぱり一番ってむずかしいよ〜。タケルがくれるお菓子は全部おいしいから〜」
そんな僕の考えなど露知らず、いまだに悩みながらパタモンが呟く。
「え、僕?」
突然の自分の登場にとっさに聞き返す。
「うん。チョコもマシュマロも飴もゼリーも、夢の中で全部タケルがくれたんだよ」
さらりと告げられた新しい情報に脳の処理が追い付かない。
「僕、パタモンの夢に登場してたんだ……?」
「なに言ってるの? タケルとボクが一緒なのは当たり前でしょー」
頭上から僕の瞳を覗き込むようにしてパタモンがにっこり笑う。
「だってボクはタケルがだいすきだもん!」
無邪気な、心の底から言っているのがわかる「大好き」に、胸の奥底から弾けてしまいそうなくらい温かな気持ちが湧き上がってくる。
「僕も、」
抑えられない気持ちが笑顔になって溢れ出す。
「僕もパタモンが大好きだよ」
伝えた言葉はパタモンの大好きと同じくらいの強さで響いてくれただろうか。でももう、それもどっちでもいいか。
強さも大きさも、なにもかも。僕らの気持ちを測れるものなんてきっとこの世界にないんだろう。
「パタモン」
「なーに?」
「今日は好きなお菓子全部買ってあげる」
「ほんとにー!? やったぁー!」
愛される事を知った喜び
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デジフェスでパタモンがタケルだいすきって言ってたのが可愛すぎたので。
タケル君は悩みとか自己完結するタイプっぽいなーと思ったからパタモンに解決してもらった。
パートナー同士がお互いを大好きな感じがとても好きです。
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