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タケル×ヒカリ
※タケルくんがわりと最低です。なんでも受け入れられる方向け。




「タケル君……」
「ん?」


「私、今日行くねってメールしたわよね?」
「うん。わかったって返信したでしょ?」

 それがどうしたの、とでも言うべく不思議そうな顔をしてタケル君が首を傾げる。その人畜無害そうな顔からは想像もしたくない状況が今、私の目の前にある。

「あなたの後ろに隠れているその女の子はどこのどなたかしら?」

 先刻、随分とラフな格好(どれくらいラフかは察して欲しい)でタケル君を探しにきたその女の子は、玄関口に立つ私と目が合った途端に、明らかに青ざめた顔をしてタケル君の背後に身を隠した。

「昨日サークルの飲み会だったんだよ」

 答えになっているようで全くなっていないタケル君の返答に、私はこれみよがしに溜め息を吐く。平然としているタケル君の後ろで女の子がびくりと身を強ばらせたのがわかった。

「とりあえず、そこのあなた」
「は、はい!?」
「いつまでもそんな格好じゃ風邪ひくわよ」
「え、あの」
「お湯浸かる? それとも温かいお茶でも飲む? もしくはこのまま帰……」
「帰ります!」

 私が言い終わるよりも前に叫ぶように答えた女の子はパタパタとリビングへ走っていくと、ものの数分で戻ってきて

「し、失礼しますっ」

 そう言うと、私の顔どころかタケル君の顔すら見ずに玄関を開け、逃げるように去っていった。

「せわしないなぁ」
「誰のせいよ」
「えー、僕ー?」
「なんで疑問系なの」

 納得できない様子で唇を尖らせるタケル君を見て、なんだが頭が痛くなってくる。朝から他の女の子が部屋にいるところを恋人に見つかった人とはとても思えない態度だ。

「これで何回目かしらね」
「……言っとくけど、やましいことはないよ」
「この状況でその言葉を信じられると思うの?」

 だいたい、やましいことがないからいいってもんじゃない。恋人への誠意というか配慮というか、そういったものがもっとあったって良いんじゃないだろうか。

「でも、ヒカリちゃんは信じてくれるでしょ?」

 見透かすような言葉の後に、タケル君の顔が近付いてくる。

「最低な男ね」
「うん、知ってる」
「もうしない?」
「それはどうかな」
「やっぱり最低だわ」
「止めて欲しいの?」
「……当然でしょう」
「ふーん?」

 意味ありげにそう言って、くすくすと囁くように笑うタケル君の声が私の鼓膜をくすぐる。と、不意に笑い声が止んで、タケル君が私の名前を呼んだ。

「ねぇ、ヒカリちゃん」

 途端に真剣みを帯びたタケル君の様子に、思わず口ごもる。

「嘘付き」

 ドキリ、心臓が大きく脈を打つ。ジッと私を見つめるタケル君の視線に耐えられず、とっさに視線を逸らす。

「私の、どこが嘘付きだっていうのよ」
「……どこ、ねぇ」
「ほら、すぐには出てこないじゃない」
「うーん……じゃあまぁそういう事にするよ」
「付いてないわよ、嘘なんて」
「はいはい、だからそれでいいって」
「本当に嘘なんてっ」
「わかったから、もう黙って」

 キスできないでしょ、私の耳元でそう囁くタケル君の言葉にカッと頬が熱くなる。

「かわいいね」

 小さくそう言って私の唇に触れるだけのキスをすると、タケル君は優しい笑みと共に口を開く。

「好きだよ、ヒカリちゃん」




裏切りの恋




 彼は気付いている。
 本当は安心している私に。
 私は気付かない振りをする。
 本当は安心している自分に。


(他の誰といようが、タケル君が最後に選ぶのは私だもの)




沖名草

――――――――――

誰かと比べることでしか愛を感じられないヒカリちゃん。ずっと昔に書いたまま内容的に公開するのを躊躇ってました。
どうでもいいと言えばいいけど、玄関口でなにやってるんだろうこの人たち…



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