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綱吉×ハル

 この状況を俺にどうしろと?



「あ!」
「げっ!」
 とある休日。
 ある場所に行くため俺は歩いていた。一人で。そう、「一人」で。

「ツナさん、どこ行くんですかー!? ハルもご一緒しますっ!」
「い、いいよ、ご一緒しなくてっ」
 一人で、行きたかったんだけどなぁ……。どうやら今日の、いや、今日も俺はついてないらしい。



「…………」
 ああ、ほらだから言ったのに。
 ぶすりとした顔で少し離れた位置にいるハルが此方を見つめている。でも俺にはどうすることもできない。

「はい、ツナ君、あーんして」
 言われるがままに口を開ける。
 ああ多分、今ハルの眉間に皺が増えたな……そんなことを考えながら。

「……ずるいです」
 俺を見つめたままボソリと呟くハルの声に、なにがだよとツッコミたいものの、開けっ放しの口ではそれもできない。

「はい、閉じていいわよ」
 ようやくお許しが出たところで「なぁ」と声を掛ければ、不服そうに唇を尖らせたハルが小さく返事をする。

「ハル居てもつまんないだろ? 今日は帰ったら?」
「嫌です」
「嫌って……じゃあせめて終わるまで、ここじゃないところで待ったら?」
「ハルがいると不都合でもあるんですか」
「いや、不都合っていうかさ……なんか恥ずかしいし」
「恥ずかしい? 恥ずかしいことをするつもりなんですか!?」
「こっ、声が大きいよ!」
 思わず辺りを見回す。幸い此方を気にしている人はいないようで、ホッと胸を撫で下ろす。

「ずるいです。ハルだって、まだツナさんにあーんなんてしたことないのに!」
「いや、あれは」
「ツナさんも嫌がらずに受け入れてますし!」
「えぇ……受け入れるっていうか」
「ハルよりあのお姉さまの方が好きなんですか!?」
「ちょっと落ち着けって!」
 ハルの両肩を掴んで話を中断させる。なんだか一人で盛り上がっているが、そもそもそんな次元の話ではないのだ。

「だってここ歯医者だからね!?」
 そう。俺が向かっていたのは歯医者。そして此処は治療室で、あのお姉さまとやらは担当のお医者さんだ。小さい頃から診てもらっているから好きではあるけど、ハルが思っているようなものじゃない。

「っていうか普通に考えたらわかるだろ!?」
 小さい子どもじゃあるまいし、付き添い席まで着いてきたハルにただでさえ頭を抱えているのに、とんだ言いがかりを付けられたんじゃたまったもんじゃない。

「だって」
「だってじゃないよ! とにかく、居てもいいから待合室で待っててくれよ」
「……わかりました」
 しゅんと眉根を下げて立ち上がるハルにふぅと溜め息を吐く。

「ツナさん」
「……」
「ごめんなさい」
「……わかったから」
 名残惜しそうに治療室を出て行くハルの気配を感じながら、はぁと大きく息を吐き出す。

「話は終わった?」
 様子を見て席を外してくれていたらしい担当医が、静かに声を掛けてくる。

「あ、すいません。大丈夫です」
「愛されてるのねぇ、ツナくん」
「そ、そんなんじゃっ……」
「彼女の為にもちゃっちゃっと治療しちゃいましょうね」
「はぁ……」
 溜め息とも返事ともとれぬような声を返して、身を任せる。

(言い過ぎたかな……)
 ごめんなさいと言ったハルの顔が浮かぶ。落ち込んだ声音が耳の奥で繰り返し響く。あーあ、これだから困るんだよなぁ。

(どう考えてもハルが悪いんだけどなぁ)
 素直に反省する姿を見ると、つい許してしまう。なんだかんだで、突拍子もないけど元気で明るいハルじゃないと落ち着かないのだ。



「ハル、おまたせ」
「あ……」
 治療が終わって待合室に出ると、膝の上に置いた鞄を抱き締めつつソファーの端にちょこんと座っているハルを見付ける。

「俺、帰るけど。今から来るか?」
「いいんですか?」
「いつも来てんのになにを今更」
「それは……」
「いいよ」
 先に歩き始めた俺を追うように、ハルが慌てて歩き出す。

「あのさぁ、ハル」
「はひっ!?」
「そんな驚かなくても」
「だっ、だって」
 言葉に詰まったかと思うと、続いてずずっと鼻を啜る音が聞こえて思わず振り返る。

「なんで泣いてんのーっ!?」
「だってだってツナさん怒ってるじゃないですかぁ……っ」
「泣くほどのことじゃないだろ!?」
「ツナさんに嫌われたら、ハル生きていけません〜っ」
 わっと本格的に泣き出したハルにどうしていいかわからず、助けを求めるように周囲を見回す。もちろん助けなどあるはずもなく、ひとまず心を落ち着けて、そっとハルの背中を撫でる。

(この対応で合ってんのかな……)
 セクハラですとか言われたらどうしよう。そんな不安とは裏腹に、少しずつ落ち着きを取り戻すハル。

「俺も強く言い過ぎたかも、ごめんな」
「……ツナさんは悪くありません」
「じゃあまぁほら、お互い様ってことでさ」
 俯いたまま表情の見えないハルに、気を付けて言葉を選びながら話し掛ける。

「ハルが元気ないと調子狂うだろ。そんな落ち込むなよ、な?」
「ツナさん」
「えっ?」
 パッと顔を上げたハルが、勢いよく俺の両手を掴む。

「ハルもやりすぎました。すみませんでした」
「い、いや、もういいよ……」
「でもやっぱり「あーん」はずるいと思うんです!」
「はい!?」
 何を言ってるんだお前は。喉元まで出かかった言葉は、更に距離を詰めてくるハルによって遮られる。

「もう歯医者さんについていきたいなんてワガママは言いません。だからハルにもあーんさせてください!」
「はぁ!? 何言ってんの!?」
 今度は声に出てしまった。なにをどうしたらそんな考えになるんだよ!

「ハルもツナさんの口の中見たいです」
「どんな願望だよ!」
 しかもそっちの「あーん」かよ! いやこの話の流れならそうかもしれないけど、そうじゃないだろ……。

「ツナさん、あーんしてください」
「い、いやだ……」
「やっぱりハルのことがお嫌いなんですね……」
「なんでそうなるんだよ! あぁもうっ」
 やけくそになって、大きな口を開けてみせる。なんで俺、女子に口の中見せてるんだろう……。

「ツナさん」
「あー?」
「どうしてハルはツナさんの口の中を覗いているのでしょう?」
「こっちが聞きたいよ!」
 お前がやれって言ったんだろ!? 突如として我に返ったらしいハルに、叫びたくなる衝動を抑えて、何度目かわからない溜め息を吐く。

「でも」
「ん?」
「ツナさんのいつも見えないところが見れました」
「なんだそれ……」
「きっとリボーンちゃんも獄寺さんだって、ツナさんのお口の中を見たりしないですよね?」
「そりゃそうだろ」
「ハルだけ、です?」
「えぇー……」
 期待に満ちたハルの眼差しに耐えられず目を逸らす。

「まぁ、そう、かな」
「そう、とは?」
「えぇ……だから、まぁその」
 近付いてくるハルの顔から逃げるように顔を背けて呟く。

「ハルだけ、だよ」
 瞬間、熱くなる顔を見られたくなくてぐるりと回れ右をしてハルに背を向ける。なにを言っているんだ俺は。

「嬉しいです」
「こんなことで喜ぶなよ」
 俺の口の中が見れて嬉しいとか意味がわからなすぎる。わからないけれど、

(ハルが元気になったならいいか)

 そんなハルが一番いいなんて、俺もけっこう意味不明だよな。



 少女の愛情



「今度、ちゃんとした「あーん」もしましょうね」
「へっ!? やだよ!」
「やっぱりハルがお嫌い……」
「なんでそうなる……あぁもうわかったよ!」




ピンクの秋桜



自分でも書いてて意味わかんねぇなこのカップルって思いました


あきゅろす。
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