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大輔←ヒカリ
「ヒカリちゃん!」
 太陽みたいな明るいその声で名前を呼ばれると心地良かった。私の態度に、言葉のひとつひとつに大袈裟なくらい反応して、一喜一憂する彼の表情を見ていると自然と笑顔になっている自分がいることに本当はもうずっと気が付いていた。
「今日もかわいいね」
 なんて、どこのプレイボーイの台詞かしらなんて思うけれど、その言葉が私以外に向けられることはないのだと、私はどこかで慢心していたのかもしれない。

「あ、ヒカリちゃん」
 久しぶりに会った彼は小学生の時よりも少し目線が高くなったみたい。それに反比例するかのように少し低くなった声が、変わらぬ呼び名で私を呼ぶ。
「大輔くん。久しぶりね」
「久しぶり。ヒカリちゃんはこれから部活?」
「うん。大輔くんも?」
「うん、そう、部室行くとこだったんだ」
「そうなんだ。頑張ってるんだね」
「ん、まぁ……実はもう少しでレギュラー取れそうでさ」
 へへ、と照れくさそうに彼が笑う。嬉しそうな顔に思わず私も微笑む。
「すごいね! 応援してるね!」
「ありがとう」
 そう言って私を見た彼の様子にふと違和感を感じる。なんだろう。なにも変わらないようで、何かが決定的に違うような。そんな違和感。
「じゃあ俺そろそろ行くよ。ヒカリちゃんも部活がんばってね」
 軽く手を振って、彼が私の肩口を通り過ぎる。わずかなその瞬間に理解した。理解してしまった。
 違和感の、正体。
「……振り返って、くれないのね」
 彼は私にかわいいって言わなかった。
 レギュラーが取れそう、だけど試合を見に来てとは言わなかった。
 彼が呼ぶ私の名前は、もうただの名前でしかなくなってしまった。
「あーあ」
 私を視界に映しても、彼の瞳はもう輝かない。親愛と懐かしさのこもった眼差しをくれるけれど、あの熱情と愛しさを孕んだ視線を向けてくれることはきっともうないのね。
 それが私の選んできた結末。彼の好意を知りながら、きちんと応えることなく過ごしてきた結果なんだ。
「大輔くん」
 もっと早くにこの結末を知っていたなら、私は想いを告げていたのだろうか。そんなもしもの話ばかりが頭をよぎって、その全てを否定する。
「馬鹿ね」
 だって私、こうならなくちゃ自分の気持ちにも気付けないのに。
「好きになってくれてありがとう。私も……」
 後に続く言葉は呑み込む。
 それを言う資格は、私にはもう、ない。


過ぎ去った愛



 確かにそこにあったこと、
 ちゃんと知っていたのに。








大輔くんは自分で自分の恋心にきちんとケリをつけそうだなって思った


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