タケル×ヒカリ
日付が変わるまでもう少し。時計の針があと数センチ動けば、それで今年が終わりを迎える。
「テイルモン、そろそろ中にはいりましょう」
ベランダから外を眺めていたテイルモンに声を掛ける。寒いというのに初日の出を見てみたいと、少し前からそこにいるのだ。
「日の出はまだまだよ。ちゃんと声掛けてあげるから」
「えぇ、そうね……ねぇ、ヒカリ」
「どうしたの?」
視線を外に向けたまま私を呼ぶテイルモンに答えると、スッと斜め下を指差して言葉を続ける。
「あれ、タケルじゃないかしら」
「えっ」
テイルモンの台詞に、まさかと思いながらも慌てて外へと目を向ける。暗がりの中で街灯の光に照らされて、見慣れた金色が見えた。
「ど、どうして……!」
呟きながらも、自然と足が玄関へと向かう。
「行ってらっしゃい。良い年をね、ヒカリ」
そんなテイルモンの言葉を背に聞きながら。
* * *
「タケル君!?」
「あ……」
小走りで近付く私の声に気が付いて、タケル君がこちらを向く。少し安堵したようなタケル君の、鼻の頭が赤くなっているのが見えて走る足に力を入れる。
「ヒカリちゃん、そんな急がなくても」
「な、なにやって、るの……っ」
「え、いや、その……」
はーっと深く息を吐いて、呼吸を整える。顔を上げた先で、優しく微笑んだタケル君と目が合った。
「ありがとう。そんなに急いで来てくれて」
「それは大丈夫だけど」
「寒いよね。これ、良かったら」
そう言って、タケル君が自分のコートをかけてくれる。そこで初めて、驚きのあまり部屋着のまま出てきてしまったことに気付く。
「ありがと……あ、でもタケル君が寒いわ」
「大丈夫だよ。セーターも着てるし」
「でもっ」
「いいから。その代わり、少しだけヒカリちゃんの時間を僕に頂戴?」
脱いで返そうとした私の手を掴んで、タケル君が言う。小首を傾げて尋ねる、そんなタケル君は本当にずるい。
「こんな時間に、こんな所に居て大丈夫なの?」
「バレたら怒られるかなぁ。でも、パタモンが後は任せて! って言ってくれたから」
「……それ本当に大丈夫?」
「あはは」
快活な笑い声を上げるタケル君に、なんとなく安心して肩の力を抜く。そんな私を見てタケル君も安心したようで、掴んでいた手をそっと離す。
「もうすぐ新年でしょ?」
「えぇ」
「今年最後にヒカリちゃんの顔を見るのと、来年一番にヒカリちゃんに会うの、どっちがいいだろうって考えて」
「え……」
想像もしていなかった台詞に、どう答えて良いものかわからず呆然とタケル君を見つめる。
「結局どっちもだなぁって思ったら足が動き出してたんだ」
会う約束もしてないのにね、そう付け加えて悪戯っぽく笑うタケル君。
「今年最後の、それから新年一番の、僕のワガママ、聞いてくれる?」
ズボンのポケットに手を突っ込んで、照れているのか目線を逸らしながらタケル君が問う。
「うん、なぁに?」
私もなんだか恥ずかしくなって、貸してもらったコートに口元をうずめながら答える。
「今年最後のヒカリちゃんと、来年最初のヒカリちゃんを、僕に独り占めさせて欲しい……です」
語尾に力を込めて、タケル君が私の様子を伺う。どんな言葉で答えるのがいいのかわからなくて、私はゆっくりと首を縦に振った。
「……ありがとう」
私の返答はちゃんと届いたらしい。嬉しそうに笑ったタケル君の顔がチラリと目の前をよぎって、次の瞬間には彼の腕の中にいた。
「今は僕だけのヒカリちゃんだ」
呟くタケル君の声が心地良くて、私は静かに目を閉じ、タケル君に身を預けた。
* A happy new year *
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