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タケルと大輔(タケヒカ含む)
「タケル、彼女と別れたって?」
「あー……うん」
「またかよ」
 僕の返答に、呆れた顔で大輔君が僕を見る。彼がそう言いたくなる気持ちは理解できるけど、正直なところ余計なお世話だ。

「お前ってホント続かねーよなぁ」
「放っといてよ」
「今回は何が原因なんだ?」
「別に」
「何かあったのか?」
「何も無いよ」
 呆れ顔の大輔君の眉間に皺がよる。呆れたうえに訳が分からない、そう言いたげだ。彼は本当にわかりやすい。きっとこういう人間の方が愛されるんだろうな。ぼんやり思って苦笑する。

「なに笑ってんだよ」
 不服そうに口を尖らせて大輔君が僕を非難する。

「わかんねー。何もないのに何で別れたんだよ」
「何もないから別れたんだよ」
「はぁ?」
 ますます分からないという意味を言外に含めて、大輔君が首を傾げる。きっとどれだけ話しても彼には理解できないだろう。それどころか話せば話すほど分かり合えないんじゃないかなぁ。

「たぶん大輔君にはわからないよ」
「なんだそれ。馬鹿にしてんの?」
「違うよ。感じ方は人それぞれってこと」
 いまいち納得しきれていない様子で大輔君が息を吐く。

「お前さぁ……」
 何か言いかけて、大輔君がジッと僕を見る。と、考えを巡らせるように視線を宙に逸らして「ま、いいや」と目を伏せた。

「大輔君?」
「なんでもねー」
「えぇ? なんでもない感じじゃ……」
「なんでもねーよ」
 どこか拗ねたように僕の言葉を遮って、大輔君は僕に背を向ける。

「まぁあんま気を落とすなよ」
「え? あぁうん。ありがとう」
 実際そこまでダメージは受けていないのだけれど。彼の気遣いは素直に嬉しい。

「次はあるといいな」
「え?」
「何も無かったから別れたんだろ?」
 大輔君の問い掛けに思わず目を見開く。まったく、どこまでわかって言っているんだか。

「おい、何また笑ってんだよ」
「馬鹿にしてないよ」
「当たり前だ!」
 照れ隠しのように言い捨てて、大輔君は「じゃあな」と去っていく。後ろ手に軽く頭を掻く姿にまた少し微笑むと、僕も彼に背を向けて歩き出した。


* * *


「タケル君、彼女と別れたんだって?」
 聞き覚えのある台詞に、思わず閉口して声の主を見やる。悪意のない瞳で此方を見つめ返す彼女は、不思議そうに小首を傾げる。

「……まぁね」
 僕のとりあえずの肯定に、彼女は「そっか」と短く言葉を返す。

「何かあったの?」
 またもや既視感のある問いに少しの間を置いて、苦笑気味に溜め息を吐く。そんな僕の様子に、彼女は気分を害したようでムッと頬を膨らませる。

「なによ、その態度は」
「ごめんごめん。ヒカリちゃんもそれ聞くんだなと思って」
「私も?」
 顔の前で片手を立てて謝る僕に、ヒカリちゃんは瞳を二、三度大きく瞬きさせる。

「私以外に同じこと言うとしたら……大輔君かしら?」
 ニヤリと悪戯っぽく口角を上げて、ヒカリちゃんが言い当てる。

「よくわかったね」
「わかるわよ。私以外にタケル君にそんなこと言えるの大輔君くらいだもの」
「えー、そうかなぁ?」
「なんだかんだ、みんなタケル君には甘いからねー」
「あはは、ありがたいね」
 軽い笑みと共に答える僕に、ヒカリちゃんが「それで?」と重ねて問い掛けてくる。

「なんて答えたの?」
「んー……内緒」
「えー」
 不満げな声をあげて、彼女が僕を睨む。そんなの可愛いだけで、何の脅しにもならないのに。

「でもタケル君の事だから、どうせ「何もない」とでも答えて不可解な顔されたんでしょ」
「えっ」
 まるで見ていたかのような正確な推理に、驚いて声を出す。

「図星だ」
「う……」
 つい反応してしまった自分に今更恥ずかしくなる。見透かされているようで何だか悔しい。

「はいはい、その通りですよー」
「拗ねてる」
「拗ねてない」
「素直じゃないなぁ」
 クスクスと控えめに笑う彼女の横顔をチラリと盗み見て。こんなに僕の事わかってて、それでも僕の気持ちには気付かないんだから困る。

「どうしてかなぁ」
 もういっそ気付いてないフリをしてるんじゃないだろうか。そんな深読みまでして、結局ずっと平行線。本当のことを聞く勇気もないまま、別の子と付き合っては別れを繰り返している。

「何が?」
「なんでもないよ」
「ふーん?」
 訝しむように言いながら、彼女がふっと苦笑を漏らす。

「でも、大輔君も残念だったでしょうね」
「え?」
「何もないのに別れるなんて、って大輔君なら言うでしょう?」
「うん。何もないから別れたんだって言ったら訳が分からないって顔してたよ」
「ちゃんと説明したの?」
「いや……」
「やっぱりね」
 仕方ないなぁとでも言いたげにゆるゆると首を横に振ると、彼女はビシッと人差し指を僕に向けて

「そういうところ!」
 と、強い口調で言い放った。

「な、なに?」
「どうして分かってもらえるまで話さないの?」
「どうしてって……だって、どうせ話しても分からないよ」
「そうかもしれないわね。でも、話さなきゃもっとわからないんだよ?」
「それは……」
 言われなくたってわかってる、そんな事。察してください、なんてご都合主義のワガママだ。だけど

「別にわかってもらえなくてもいいよ」
「……うん」
 ふいと逸らす視線の端で俯く彼女が見えた。

「タケル君は、そうなんでしょうね」
 どこか寂しそうな彼女の声音に、そろそろと視線を戻してその姿を視界に入れる。

「それでもね」
 優しげな慈しむような眼差しが僕を捉えて笑う。

「タケル君の事、わかりたいって思ってるんだよ」
 落とされた言葉が僕の心深くにチクリと突き刺さる。

「タケル君が何を思って、何を考えているのか。わからないからこそ、知りたいって思うんだよ」
 ドクドクと脈打つ鼓動が煩い。まるで突然、心臓が動いていることに気付いたみたいだ。

「ねぇ、それって誰の話?」
 緊張で乾いた口から、掠れた声が飛び出す。

「誰って、今は大輔君の話をしてたじゃない」
「そうだけど……そうなんだけどさ」
 でもそれって本当に大輔君の話? ううん、大輔君「だけ」の話なの?

「待ってると思うな、タケル君が話してくれるの」
 緩く微笑んで、ヒカリちゃんは言葉を締めくくる。これ以上は教えてあげないよ。そう言われているみたいで、僕は何も言えなくなってしまう。

「そう、かな」
 ようやく絞り出せた言葉はこれだけだった。




貴方を待っています




「あの、さ……僕ね」





ラベンダー

―――――――――
言わなくちゃ伝わらない。
言っても伝わらない。
聞いても理解できない。
だけど話をしなきゃ何も始まらない。
タケルはそういうの苦手そう。でも大輔はわからなくても、ちゃんと聞こうとしてくれそう。
色々と書きたかった部分はあるのに収まりきらなかった…っ

タケルと大輔の友情話がもっと見たいです。


あきゅろす。
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