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丈←空
「おーい、丈!」
 人で埋め尽くされた校庭の端で、友人らしき人達と話す先輩を見付けて太一が声を掛ける。

「太一!」
 気付いた先輩は友人らしい人達に声を掛けると私達の方へと歩いてくる。

「良かった。会えなかったらどうしようかと思ったぜ」
「大袈裟だな。会おうと思えばいつだって会えるだろう?」
「そうもいかないだろ。今日は特別だし。それに、丈はもう中学に行くんだから」
「まぁ、そう言われるとね」
 安堵する太一を笑う先輩と、先輩の言葉に最もな返事をするヤマト君。

「卒業おめでとう、丈」
「ありがとう」
 微笑んで言うヤマト君に先輩もはにかんで答える。

「みんなで卒業祝いやろうぜ! 光子郎やミミちゃんが用意してくれてんだ」
「タケルとヒカリちゃんが、丈にプレゼント渡すんだって張り切ってたよ」
 意気揚々と提案する太一に、ヤマト君が言葉を続けて。先輩は嬉しそうに笑うと

「ありがとう。お言葉に甘えるよ」
 と、2人の後に付いて歩き始める。

「よし行こうぜ!」
「慌てるなよ太一。転ぶぞ」
「大丈夫だって! サッカー部舐めんなよ?」
「関係ないだろ」
 他愛ない話をしながら先を歩く2人を微笑ましい表情で見つめながら先輩が振り向く。

「行こう? 空君」
 ずっと何も言えないまま立っている私に、先輩はきっと気付いていたんだ。

「……はい」
 私が追い付くのを待って、隣同士に先輩が歩き出す。

「太一もヤマトも元気だなぁ」
 ハハハと明るく笑う先輩を、横目に窺う。スッと伸びた背筋に、きっちりアイロンの掛かったジャケットがよく似合う。胸元に添えられた花飾りが今日という節目を実感させて、私は思わず視線を地面へと逸らした。

「元気がないね」
 不意に掛かった声に、弾かれたように顔を上げる。

「僕が卒業すると寂しいかい? なんてね」
 冗談だと笑う先輩に、堪えていた言葉が飛び出す。

「やだ」
「え……」
「卒業なんていやです」
 どうして太一は笑っていられるの? どうしてヤマト君はあんなに簡単に「おめでとう」なんて言えるの?

「だって、もう学校に行っても丈先輩はいないのにっ」
 時々前を通る6年生の教室で、先輩は教科書片手に友達と笑っている。教室から見える体育の授業、運動が得意ではない先輩はそれでも必死に練習するの。

「廊下で会ったら話をして、時々勉強を教えてもらって……そんなこともうできないのに!」
 同じように学校に行く。だけど同じ場所に先輩はいない。それがどうしようもなく寂しい。

「おめでとう、なんてどんな気持ちで言えばいいんですか……っ」
 涙が零れて止まらない。笑うなんてもっと難しいわ。

「空君……」
 困ったように先輩が私を呼ぶ。

「えぇっと、すまないね。軽率なことを言ったよ。そんな風に思ってくれてるなんて思わなくて」
 焦ったようにそう言うけれど、たぶん私の涙の理由を先輩は半分も理解していないでしょうね。

「そうだな、なんて言うか……ほら! 僕が卒業しても、太一やヤマトや……光子郎にミミ君だって居るし、大丈夫さ。きっと楽しい……」
「……ちがう」
「空君?」
 違うわ、先輩。そうじゃないの。太一でもヤマト君でも、他の誰でも代われないの。

「丈先輩がいいんです」
「え」
「丈先輩でなきゃ嫌です」
「え、えっと……参ったなぁ……」
 どうすれば、なんて真剣に考え込む先輩に自然と笑みが零れる。

「丈先輩」
 私の声に先輩が此方に顔を向ける。

「先輩が好きです。卒業、おめでとうございます」
 呆気に取られた顔をして、先輩が私をみつめる。かと思えば、驚いたように目を見開いていきなり頭を抱える。

「あ、ありがとう……? って、え? えぇ?」
 ほらやっぱり理解してない。混乱しながらも律儀にお礼を述べる先輩に笑いながら、先輩の右腕を掴んで引っ張る。

「ほら先輩、行きましょう? みんな待ってますよ」
「え? う、うん、いや、でも……っ」
 何か言いたげな先輩を無視して、先を歩く2人の方へと駆け出す。

「……僕も、寂しいよ」
 背後から聞こえた言葉。はい、今はそれで十分ですよ。先輩。



恋のメッセージ



アイリス




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DW冒険後の丈先輩相手なら、空さんはちょっとワガママ言えるんじゃないかなって思ったり。


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