炭酸 (完結)
想いのかたち

それから後の事は、両者共に曖昧にしか覚えていなかった。
何せ相手の存在を改めて考えてしまって、どんな話をして帰路に着いたのかも分からない。
唯一覚えていた事といえば、あの微妙な距離感だけ。

「ハァ〜…」

聡は一人、自宅の和室に大の字で寝転がっていた。
帰って来て普段着に着替えたのは良かったが、生憎この質素な長家には扇風機しかない。

ただただ暑かった。
この暑さは夏だからか、それとも先程から頭から離れてくれない彼女のせいか。
とにかく今日は暑い。ラムネでも飲むかと身体を起こせば、ほぼ同時に縁側の垣根から勝政が出てきた。

「よっ。」

軽々と不法侵入する我らが生徒会長様は、何食わぬ顔で縁側に腰掛ける。

「マサ?あれ、どうかしたのかい?」

「あーっちぃ。聡ぅ〜なんでもいいから飲み物くれ〜。」

「ああ。ちょっと待ってろよ。」

縁側の見える和室から奥まった小さな台所を目指す。
冷蔵庫の戸棚に並べられたラムネを2本取り出し、だれている勝政の頬にビンを押し当ててやった。


「ぷはーっ!!!」
「生き返ったー!!!」

二人して一気にラムネを飲み干し、空のビンを置く。

「それで、榊原と何かあった?」

「さすが名探偵!目の付け所がいいねぇ〜。その通りだ。」

「また怒られたんだろ〜?」

「んー…すげえ怒って泣いた。いや、俺が怒らせて泣かせたのか。」

「泣いた!?あの榊原が!?」

一度だけだが、仲の良い友達や女子の前ではこっそり泣いているのを聡は見た事がある。
それくらい、彼女が人前で泣く事は一切無い。特に勝政の前では。

「わんわん泣いてた。俺は初めて見たんだ、アイツの泣き顔。あれにはビックリして暫く動けなかったぜ〜。」

「ちょっと待ってくれよ。確か、マサは榊原に呼び出されたんだよな?何の呼び出しだったんだ?」

「愛の告白ならぬ罵声と涙の告白。」

もう少し違う表現は出来なかったのだろうか。何とも嫌な告白である。

「…返事は?」

「返事も何も!美和子の奴、泣いて怒って言うだけ言って逃げやがったんだ!俺の心はぐちゃんぐちゃんだぜ。」

恐らく彼女は緊張に堪えられなかったのだろう。今頃は親友の家にでも駆け込んで泣き腫らしているはずだ。

「マサはさ…榊原の事、好きなのかい?」

「………。ぶっちゃけわかんねーんだよ。
小4で初めて同じクラスになって知り合った女の子が、実は俺ん家の隣の家の子だったんだ。どう思う?」

「微妙だね。5年の付き合いで幼なじみとは言いにくいし、だからといって只の友達とも言いづらいよ。」

「そ。正にそれ。俺はさー…美和子の事好きだぜ?でもそれがアイツの抱く想いとおんなじか、わかんねーんだ。
友達としてなのか家族としてなのか…女としてなのか。」

「…難しいね。」

「ああ。だからこうやって教えてくれそうな奴のトコに来たんだけど…聡、お前もなんか悩んでるよな?」

「わかるのかい!?」

聡は心底驚いて目を見開く。

「分かりまくるぜ!男同士だからな!ま、お互い頑張ろうな。相談なら乗るぜ!」

「ははっ!ありがとう!そうだ、そういう系は薫の方が経験者だよ。行ってみたら?」

「そうする!アイツ片想い歴長いからな。さぁて…んじゃ、ちょっくら行ってくる。
聡!聞いてくれてサンキューな!」

ラムネの空き瓶を縁側に置いて、軽く背伸びをした勝政は小走りで去って行った。

「ああ!気をつけるんだぞ!」

彼が帰った後、畳に寝転がり天井を眺める。

「想い、か…」

ふと手に当たったラムネをおもむろに掴み、ビンの中にあるビー玉をカラコロと転がす。

暑い暑い真夏の昼、さんさんと降り注ぐ太陽の光でビー玉は青く輝いていた。



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