炭酸 (完結)
めぐる季節

あれから三日、環は手紙を書いていた。

初めて書く手紙にはどうしてもあの時の写真を添えたかった。
実は薫がインスタントカメラの現像が出来る店を知らず、生徒会メンバーで一悶着あった事で少し遅くなってしまった。

メールや電話ではあまり長く話せない。
国際電話って案外恐ろしい値段を突き返してくるのねと、痛感した事もあるが。
環は三日の間に起こった出来事を事細かに書いて、アメリカへ送った。
手紙を送ったその日から、環は朝早くにポストを見に行くのが日課になった。

しばらくして、返事が届いた。

相変わらず元気にしているが、英語が慣れなくてジェスチャーを駆使しているよと彼の文字で書かれていた。
同封されていた写真には彼の家から撮られた美しい景色が納められていた。

それから二人は手紙に近況を伝える写真を同封するようになった。
あえて自分の姿を写さない事にしたのは、今度会うときにどんな姿なのか想像する楽しみを置いておくため。
環は機械を扱うのが苦手だが、写真を送る為にカメラだけは美和子や薫に教えて貰い、何とか使えるようになった。

クリスマス、聡から手紙を入れる為の綺麗な箱が送られてきた。
環も何かしたくて、雑貨店で一目惚れしたフォトフレームをプレゼントした。
離れていても二人でイベントを楽しめると知った。

それからあっという間に中学三年になった。
環と美和子は同じ高校へ進むことが決まった。元より小さな町だ、中学も高校も数えるほどしかない。
ただ、勝政は違った。
工業を学びたいからと少し離れた地区の高校を受けると決めたのだ。
その事を伝えると、アイツなら大丈夫さと彼は笑い飛ばしていた。

三年の秋、環たちは生徒会を薫たちに引き継いだ。
会長となった薫と副会長の桃華は、仕事に新しく入った一年生の指導や仕事にてんてこ舞いだった。
最近ようやくネイティブの会話が出来るようになったと話す彼は、中学から持ち上がりで高校へ行く事が決まった。

高校生初めての春が来た。

自転車通学になった勝政は、わざわざ環たちの高校へ寄って美和子と環を迎えにくる。
恋人同士で帰っていいよと言ったのだけれど、二人は環を悪い虫から守るのが使命なんだと声を揃えた。

相変わらずなのよと苦笑すれば、君は出会った時から綺麗な人だから気を付けてと、彼は心配していた。
私も彼が心配だった。

高校二年の冬、彼の母親の手術が一段落したと報告があった。
もしかしたら来年の夏には帰れるかもしれないと、書かれていた。
その言葉に舞い上がった環は歓喜の手紙を送った。

それを境に、彼からの連絡は途絶えた。

不安で一杯になった。
待てども待てども、手紙は来ない。
彼か家族に何かあったのだろうか、それとも他に好きな人が出来たのか。
美和子や桃華に励まされる日々が続いた。もう諦めるべきなのだろうか、と考えるようになった。

高三の夏、見知らぬ年下の男の子に告白された。弱い心が、揺らいだ。
美和子に相談すると、しっかりしなさいと渇を入れられた。その言葉で思い出した。
毎日見ていたポストをいつからか、見なくなっていた事に。

環は待ち続けると決めた。彼を見送った時のように、あの並木道で待ち続けると。


そして何度目かの夏が来た。



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あきゅろす。
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