炭酸 (完結)
君には敵わない

「あ、出てきたぞ!いい感じじゃんかよ!」

「さっきより少し距離が近づいたわね!後は二人で乗り物乗って、照れたりしちゃって〜…きゃあああ素敵〜!」

そんな美和子の少女漫画的な展開をぶった切り、聡と環はジェットコースターやウォータースライダーなどのコースター系を乗り回し、
全く甘い雰囲気など無いままにお昼を食べに行った。

「あり得ねえ…聡の奴、ガチで遊んでやがる…」

「環ったらメリーゴーランドとかコーヒーカップとか乗りなさいよ!なんで高須君と乗りたいものが絶叫系なの!」

「なあなあ〜!高須ら昼飯食いに行ったし、俺らも食べに行かへん?あそこにホットドッグとかあんで!」

「荒井だけ行けよ。」
「荒井だけ行けば?」

そう言い放った二人の腹の虫が声を揃えた。口よりも腹は素直だ。
じぃっと荒井を見つめる二人の視線には、無言の圧力と訴えがひしひしと伝わるものがあった。

「わぁかったわ!俺が買うて来たるやん!そこ、動かんとってや!」

バカップルに負けた荒井は渋々、彼らと自分の昼食を買いに走ったのだった。


「それにしても、美和たちに全く会わないね。どこにいるんだろ。」

尾行されている事など知りもしない環は美和子達の心配をする。

「あー…まあ、帰る頃には会うんじゃないかい?」

「そうだといいけど…せっかく企画した荒井先生の思い出作りなのに、何だか悪いわ。」

「じゃあさ、もう少し遊んでから荒井にお土産買って帰ろう!きっと喜ぶよ!」

「それは良いわね!あっ、高須君は何時まで遊べるの?私は17時までなの。」

「ん〜俺もそのくらいだし、お土産の時間を抜いても後3時間はあるよ!」

「ふふ、高須君楽しそう。」

「もちろんさ!塚本と一緒なら何処でも楽しいよ!」

昼食を食べ終えた聡達は荒井へのプレゼントを買うべく、お土産ショップに訪れた。

「何がいいかな〜、荒井先生ってどんなのが好きなんだろう?」

「リラッコマとか子供染みたの好きだよ。確かギューピーのストラップ集めてたと思う。」

「ストラップね…あ、これかわいい。」

ストラップコーナーの脇にはおもちゃではあるが、可愛らしい指輪が並んでいた。
環は緑色の石がはめられた銀の指輪をまじまじと見つめる。

「へえ〜!指輪か!綺麗じゃないか。」

「ん、でも今日は荒井先生の買わなきゃ。買ってくるね。」

「ああ、うん。わかったよ。……。」

環が元の場所に戻した指輪をちらりと見やり、聡は会計をしている環の所へ向かった。

「お待たせ。あれ?高須君は荒井先生に買わなかったの?」

「荒井には俺の漫画をあげようと思っててさ。」

「?そうなんだ。」

その後二人は、仲睦まじく残りのアトラクションを乗っていった。

「おお!さっきより良い雰囲気じゃね?」

「早く告白しないかな。」

「告白なんてそうそう出来ひんって〜!タイミングとかムードとか考えなあかんしな!」

「あ!観覧車よ!観覧車に行くわ!」

「観覧車と言えば告白!」

「告白と言えば恋人!」

「尾行再開だぜ!」

「何ぼさってしてんの!行くわよ荒井!」

「そんな上手いこといくんかなあ?」

勝政達は尾行にあまり乗り気ではない荒井を引き連れて、何とか聡達の後ろの観覧車に乗ることが出来た。

「うわあ!いい眺めだね!見てごらんよ塚本!」

「本当に、すごく素敵。」

環は夕焼けに照らされた聡の顔を見て、優しく微笑む。

「俺じゃなくて外を見なよ!そんなに見つめられると照れるじゃないか。」

「外も綺麗なんだけれど、今日は沢山…高須君が笑っていたから。心から笑っていたから。」

そう言った彼女はとても綺麗で、聡の決意を固めるには十分だった。

「塚本、やっぱり君には敵わないや。そんな君に伝えたい事があるんだけど、その前に…」

「…え?うん、わかった。」

聡は環に少し耳打ちをした。初めから気付いていたけれど、環の為にも二人きりでの方が良い。

「おいおい!耳打ちとかしてるぜ!」

「これはもうコクったわね。観覧車を降りたら高須君達を確保よ!」

前方の観覧車が見える窓に必死で張り付いているバカップルを、荒井は呆れた顔で眺めていた。

「告白で耳打ちなんかせんのんちゃう?間違っとったら自分らめっちゃ恥ずかしいで?」

「荒井は黙ってろ!」
「荒井は黙ってて!」

「へえへえ、お口チャックしとくわ〜。」

観覧車がどんどん下がって来た。乗降口が見えてきた所でアナウンスが流れる。

(ドアが開きます。ご注意ください。)

「よし!走るよ塚本!」
「う、うん!」

自動で開かれた扉から二人は一目散に走る。聡達が遠くに走り去る姿を観覧車の中から見た勝政達は叫ぶしかなかった。

「「ああああああああ!!」」

「ほぅれ言わんこっちゃないやん。」

「知ってたなら先に言えよ荒井いいい!!」

「もっと自分の意見を通しなさいよね!!」

「お前らが却下したんやろっ!!」

もう追いかける事など出来ない勝政達はとんでもない言いがかりと八つ当たりをニヤニヤしている荒井に浴びせ、仕方なくもう少し遊ぶ事にしたのだった。

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