炭酸 (完結)
お騒がせカップル

「お〜い!聡っ!おっはよっす!!」

「ん?やあ、マサ!おはよう!あれ?榊原は一緒じゃないのかい?」

例の体育祭後、勝政と美和子は晴れて公認夫婦となり、毎日一緒にいちゃこら登下校している。

「美和子がさ〜今日日直でさ!先に行っちまったんだよ〜朝から泣きたくなったぜ!」

片時も愛しい彼女と離れたくないんだ!と勝政は存分に惚気てくる。

「そっか、残念だったなー。…で?どうなんだい最近。」

「へへ〜、マジ可愛いぜ。学校ん時は甘えて来ねーのに二人きりだと可愛いくて可愛いくて!!
手はもう繋いだぜ!めっさ可愛いかった!」

「あははは、さっすがー。」

「聞いといて流すなよ!!ってかよ、聡はいねぇの?好きな奴。」

好きな奴。そう言われて直ぐさま脳内に現れたのは彼女。
姿形を思い描くだけで口角が上がりそうになる。もう手遅れな程に愛しいのだ。

「んー…いるよ。」

「マジマジ!?誰!?」

「マサってお喋りだからなあ〜。絶対誰にも言わないかい?」

「言わない言わない!言ってもいいのは美和子だけ!ぜってー大丈夫だろ?!」

言わないと断言する勝政の中で、暴露してもいいのは美和子だけで、それは絶対的な安全を約束されるらしい。

「榊原か〜。あいつ、恋愛系は口軽いんだよなぁ〜…。」

「だ〜いじょぶだって!!俺に任せろ!」

胸を張って高らかに笑う勝政はどこから見てもお喋りだが、ある意味でイイ奴でもあった。
2階へ続く階段を軽い足取りで駆け上がる彼の背に聡は口を開いた。

「マサ!俺が好きなのは塚本、塚本環さ!」

「塚本!?マジか!!生徒会でカップルが3組に!」

驚愕する会長様に苦笑して、聡は廊下の方を見遣る。

「彼女は俺の事なんて何とも思ってないさ。それに、俺も告白するかは分からないし。」

「何だよ〜告れよ〜。あ!美和子に塚本の事聞いてやろうか?好きなのに伝えねぇとか勿体ないって!」

「ハハハ!遠慮しとく。」

「んー…そうか〜?」

納得出来ないと勝政の顔に書いてあるが、聡はさして気にも止めず、爽やかに笑う。

「じゃ、職員室寄るから後でな!」

「はいよ〜。」

聡と別れた後、勝政は教卓前に置かれた自分の席で椅子を揺らしていた。

「や〜っぱ勿体ねーよなァ〜。」

「何が勿体ないのよ。」

「ぬぁうぇい!!!」

日直の仕事を終えた美和子が風のように現れ、奇声を発する勝政の隣を陣取った。

「おおっ!おはよう俺の美和子!今日も愛してるぜ!」

「恥ずかしいからその挨拶ヤメテって言ったでしょ!!!」

朝っぱらから熱烈だが、これは二人が付き合い始めてから毎朝繰り広げられている。

「なんだよ〜いいじゃん。」

「良くない!!ここ教室!皆に迷惑でしょ!」

「え〜?皆迷惑してるか?」

真っ赤になって怒る美和子の両手を握った勝政は、教室中に響く程の大声でクラスメート達に問い掛ける。

「あー?してねーよな?むしろこれが日常というか。」

教室の端で喋っていた男子、

「榊原さんのツンデレ可愛いというか。」

「ねー!美和子ちゃん髪短い方が似合っててかわいーし。」

黒板に落書きをしている女子達、

「マジそれ!マサと付き合いだしてから可愛いくなったよな。」

机を囲んでトランプをする男子、

「可愛いっつーかエロい。」

勝政の隣の席の男子、

「って訳で、いいぞもっとやれ!みたいな感じかな?」

と後ろの席の女子。ノリの良いクラスメート達に囲まれて公認カップルは幸せである。

「らしいぞ美和子!良かったな!」

「良くないわよ馬鹿勝政!!!」

勝政に握られた両手を振り切って叫ぶ彼女は、クラスメート達から生暖かい目で見守られている事を知らない。

「あれ?俺ら何の話してたっけ?」

「勿体ない、がどうこう言ってたよー。」

勝政の後ろの席の、小柄な女子が親切に教えてくれる。

「おおそれそれ!ナイス田中!」

「いいえ〜。」

ちょっとしたやり取りの中で、田中さんは美和子の視線に気付き、ニヨッと笑う。

「あ〜!榊原さんヤキモチ妬いてるー!か〜わい〜い☆」

「ちっ違うわよ!違うからね勝政!勘違いしないでよね!」

「へへー勝手に勘違いしとくぜ。あ!そうだ、美和子。」

「な…何よ急に改まっちゃって。」

突然キリッとした顔になる勝政に美和子は顔を赤らめる。
まあ、その際もバッチリ生暖かい視線達に見守られているのだが。

「聡の奴がさ、塚本の事マジ大好きなんだと。」

「あらら。高須君が環をねぇ〜…お似合いじゃない?」

「だよな?めっちゃ好きな癖にアイツ告るかビミョーみたいな事言ってんだよ!!
なんかさ、塚本の気持ちは俺に向いてないから〜とかで!」

「告ればいいのに。最近の環ったら高須君の事意識しまくりだもん。」

熱く語り合うカップルの会話に、聞き耳を立てていたクラスメート達が騒ぎ出す。

「なになに〜?何の話〜?」

「ん?聡が塚本の事好きだーって話。」

先程の端の男子も、

「え!!高須君て塚本さんの事好きなんだ!」

黒板に落書きしていた女子達も、

「マジで!?塚本さんって高須の事好きなのか!?」

隣の席の男子も、

「何かね、高須君と環ちゃんて両思いなのに中々くっつかないんだって!!」

さっき登校してきたばかりの女子までもが噂をし始める。

教室のど真ん中、割と大きな声で語り合えば聞こえるのは当然なのだろう。
少々話しの内容がすり変わって行きつつあるが。

「ちょ、ちょっと勝政…環達の事、一瞬で広まっちゃったんだけど…。」

「べつにいいんじゃね?この方が聡もコクりやすいだろ。」

当の本人は塵程にも気に止めていなかった。

「逆に気まずいわよ馬鹿!」

「そっかなぁ?」

「当たり前よ!!もしかしたらもう高須君の耳には入ったかも…。
ああ、どうしよう!環が聞いたら卒倒するわ!」

事の重大さを認識していない彼氏を叱り付け、噂の対象である聡達の心配をする美和子。

「あれ?そういや塚本まだ来てないよな?いつも早いのに。」

「環は今日親戚の結婚式なのよ。だから公欠。」

「ナイス結婚式!空気読んでる〜う!」

「馬鹿っ!!そういう問題じゃないでしょ!明日環が来たら学校中に広まってるわよ!?」

「朝礼前でこの広まりようだもんな。人の噂ってこえー。」

ケラケラと笑う勝政は背後に立つ彼に気付かなかった。

「ああ、ホント怖いよな。」

「「げっ…」」

「さすがカップルだね!こういう時ハモれるのかい?」

噂をすれば影、高須聡本人が爽やかな笑顔で立っていた。



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あきゅろす。
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