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『本質的本能』


容赦なく暴かれるのは身体か、心か。
卑しく蠢く本能か。
「殿…」
ひんやりとした手がたどる感触に肌が粟立つ感覚すら快い。これから何が行われるか、その先を期待していることを最早周瑜は疑わなかった。
「ん?どうした?」
いつも以上の優しい声色が白々しい。服から差し込まれた手がかすめる度に身体を震わせながら周瑜は切ないため息を落とす。
笑みを含んだ瞳が、優しい声が、蠢く指が、周瑜の浅ましい望みを口に出すことを促している。決して孫堅が強引に抱くのではないと、潔癖な周瑜が陥落する時をゆったりと待ち構えながら。
「ああ、寒いか?」
「いいえ、いいえ殿…」
優しい心遣いが逆に羞恥を煽る。まるで自分だけが熱を上げているような錯覚。
言いあぐねる台詞はあまりにも浅ましく、それ故周瑜を躊躇させた。何もかも掌の上であるのだと承知しているはずなのに、それすらも関係ないように振舞う孫堅に羞恥の念は未だ消えないまま。
少しだけ煽るその手管と、あくまで態度を変えないその差が恨めしくもあった。
「どうしたというのだ?」
望みがあるのなら言ってみよとことさら優しげな問いと同時に、いつの間にか噛み締めていた唇をやんわりと解かれた。
たどる指先はぞくりと周瑜に記憶を呼び覚ます感覚を与えるのに、決してその先に踏み込まない。
蜘蛛の巣のような罠にはまっていると自覚しながら、周瑜はそれでもその罠にかかる以外の術を知らなかった。
「後生でございます…」
媚びていると自覚できる視線をやって、踵を持ち上げる。触れ合わせた唇の熱さに、周瑜は観念して屈辱を受け入れた。
「抱いてくださいませ」
お前が望む通りに。
たっぷりと色を含んだ声の返答に、最早後戻りは出来ぬとわかっていながら、周瑜は逃れようのないその快楽と充足を得んと与えられる口付けを貪った。
「ふっ…」
肉厚な舌が口腔を蹂躙する様が心地よい。執拗な愛撫は今日の趣向だろうかと、周瑜はぼんやりとそんなことを考える。
「あ…文台さま…」
「今日は瑜の望むとおりだ。申してみよ」
言えというのか、浅ましい望みを。肉欲に溺れる本能を。
たまらない羞恥に周瑜は口ごもる。未だ意識ははっきりしたまま、快楽に溺れてしまおうにもその手段がまだ与えられていない。
口付けだけを繰り返す孫堅に、しかし逆らう術はない。
「触って、くださいませ」
「どこに?」
「余すところなく」
この身を隙なく寸分なく、触れて欲しい。
小さな声の懇願に、孫堅は違えることなく言われるまま隅々まで肌を辿った。
形の良い耳朶、華奢な首筋、薄い胸板の頂きは特に特に焦らすように念入りに、それから背中、腰、足の付け根、そして足先まで丁寧に。
「あ…口付けを…っ」
遠慮がちに強請られる台詞に従って口付けを落とす。身体中あちこちに、時折唇にも。
敏感に反応を返す身体に気をよくした孫堅は、身を赤く染める周瑜の身体を丁寧に愛撫した。それこそじっくりいつもより丁寧に丁寧に、まるで性感帯を創り上げるような執拗さで周瑜の息を乱す。
最早背中に舌を這わすだけでもビクリと跳ねる反応するほど、すっかり周瑜は身体を解きほぐされてしまっていた。
それでも決定的な快楽をもたらさない掌に懊悩する姿は、まさしく艶めかしいの一言に尽きる。男に抱かれることに慣れた身体は、そうした本人である孫堅にとってみても非常に抗い難い魅力に溢れていた。
「文台さま、あの」
「なんだ?」
遠慮がちな周瑜の声に視線を向けてみれば、とても言いにくそうに口ごもる姿。それなのにもの欲しそうな唇の淫靡さといったら、思わず嬌声をあげさせたい衝動を与えるに十分であった。
「触れても、よろしいでしょうか?」
なるほどそう来たかと意外の念を持つ孫堅であったが、そんなことおくびにも出さずに体勢を入れ替える。寝具に身体を寄りかからせ夜着を寛げれば、おずおずと周瑜の手が伸びてくる。
皮膚の下を確かめるような繊細な指の動きが、段々と大胆なものになってくる。うっとりと愛撫を施す姿は、普段には見られないものだ。
「ああ…」
その白い手がやがて、頭をもたげた孫堅自身にたどり着くと、思わずといったように周瑜が吐息を漏らした。
もはや媚びているというよりうっとりと陶酔したような視線に頷いてやれば、布を掻き分け直接的な刺激を与えてくる。その熱さに一瞬だけ慄いたように止まった手は、次の瞬間には厭らしくその猛々しさを増長させた。
その口元に指を差し出せば、迷うことなく周瑜はその骨ばった指を含む。柔らかな頬肉を擽り、微かにざらついた舌を捕らえるように撫で擦ればすれば、まるで絡みつくかのようにその舌は夢中で愛撫に応える。
「腰を、あげよ」
「…っはい」
そうして促されるまま、或いは欲望に忠実なままとも言えようか…周瑜は身体を持ち上げる。
そうして出来た隙間に、引き抜いた指を潜り込ませた。
「ん…」
後腔をなぞるように、執拗に揉みこむ。そうして身悶える周瑜に己と彼自身を同時に擦らせるよう命じれば、つつましく立ち上がった周瑜自身が重ねられた。
「あ、あ、」
そうして溢れた先走りを何度もすくって、やがて二本指が飲み込まれるまで解してやれば、周瑜は息も絶え絶えに孫堅へと凭れかかって善がっていた。
「瑜よ」
虚ろな視線を上げた周瑜に、未だ放出は果たされぬまま硬度を保った怒張を押し付ける。
もの欲しげに咽喉が上下するのを見届けて、孫堅はたっぷりと深い口付けを送った。
「どうしてほしいのだ?」
好きなようにしてやると腰を揺らせば、それすらも快楽に変えて周瑜は腕を伸ばす。
「これを…瑜に、くださいませ」
理性なぞ存在しないかのように本能を剥き出しにさせる、嵐のような衝撃を与えるそれを。
「そのような強請り方、教えておらぬがな」
そう言いながらも違うことなく、孫堅はゆったりと身を沈める。痛いほど締め付ける入り口を通り過ぎれば、中は軟らかく侵入者へ複雑に絡みつく。そして奥に誘うように、吐き出すように。その動きが蠕動として動かずとも快楽を与えることに孫堅は含み笑う。
「ぁああっ」
充分に馴染んだ内部に遠慮することなく、それでも緩やかな動きで腰をゆすってやれば、恐ろしいほど色香を放つ周瑜が愉悦に身を捩らせた。
「あ、文台さま…もっと」
「もっとだな。それからどうすればよい?」
「名を…呼んでくださっ…ませ」
「っあまり可愛いことばかり言うな」
それから孫堅は周瑜の望むままに激しく深く、そして濃密に愛した。
「ふっ…はあっあっ、ああっ」
「公瑾…」
「文台さま、文台、さまっ」
切なく周瑜が縋りつく。それがあまりにも危うく、あまりにも一途であるから孫堅は強く抱きしめてやる。
細い腕が孫堅の背中へと強く回された。
「公瑾、」
それから周瑜の余裕も何もかも奪い去るように激しく攻め立てに攻め立て、獣のように我を忘れた周瑜に孫堅も限界が近づくのを感じた。
「もう…っ」
「そのまま…果てよ」
そうして攻められた最も感じる部位に最早あられもなく嬌声をあげ快楽に身を捩らせるだけ捩じらせ、周瑜はとうとう登りつめる。
その激しい締め付けと乱れきった周瑜の痴態に孫堅も遅れて逐情を果たした。
はっはっと乱れた吐息と、どくどくと脈打つ心臓の音がしばらくそのを支配する。
「もったいなき、幸せでありました…」
そうしてうっとりと頬を染めて言う周瑜が健気で、やはりどこまでもその白さはそうそう染め替えることができないのだと、孫堅は残念なような満足なような心持で吐息を吐き出した。




-了-


あきゅろす。
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