【伝えたい思い】
※オリキャラ注意
「キヨ!」
俺は名前を呼ばれて振り返った。
そこに居たのは俺たち、男子テニス部のマネージャーである如月悠ちゃん。
壇くんが選手になったからテニス部にマネージャーがいなくなったので、俺が悠ちゃんになってくれないかと頼んだ。
悠ちゃんはマネージャーである前に俺の彼女だから。
二つ返事で引き受けてくれた悠ちゃんには感謝している。
「何?悠ちゃん」
「南くん見なかった?」
「南?」
南の名前にドキリとした。
心臓がドキドキ言ってるのがわかる。
「いや、知らないけど…」
「そっか。キヨなら知ってるかと思ったんだけど」
「俺よりまさみんの方が知ってるんじゃない?」
俺はちゃんと笑えてるのかな?
悠ちゃんには悪いけど、早く話を切り上げて逃げてしまいたかった。
「東方くんは今、職員室に行ってて話せませーん」
「職員室?」
東方が職員室に呼ばれるなんてめずらしい。
俺や亜久津ならわかるけど。
まあ、亜久津は無視してるけどね。
「進路の相談だって」
「ああ。なるほど」
なんて東方らしい理由。
さすが地味ー'Sの片割れ。
「で、ホントに知らないの?」
「だから、知らないって…。俺は南の何なのさ」
「千石?」
びっくりした。
だって、今まさに話題にしている人が目の前に現われたんだから。
「あ!南くん。丁度探してたんだ」
「なんだ?」
悠ちゃんと南が何か話していたけど、俺には何も聞こえなかった。
いや、聞こうとしていなかったのかもしれない。
「でも、やっぱりキヨの近くにいると南くんに会う確立高いなぁ」
「そうか?俺にしたら如月に会う確立の方が高いけどな」
「あははっ!それって私たちがキヨに集まってるって事じゃない?」
「そうかもな」
止めて。
二人だけで話さないで。
触らないで。
駄目だ。
駄目だ。
嫌だ!
「キヨ?」
無意識に悠ちゃんの腕を掴んでいた。
そのまま悠ちゃんを抱きしめる。
「キヨ!?どうしたの?」
「ご、ごめん。二人だけで話してるからさ」
やきもち焼いちゃったと弁解する。
誤魔化せただろうか?
ちゃんと笑えてるかな?
でも、悠ちゃんにも南にもこの気持ちは気付かれちゃいけない。
「…悪かったな、千石」
「南くん?」
「南のせいじゃないよ。俺が嫉妬深いだけ」
これはホント。
俺は嫉妬深いから、南を独り占めしたい。
そう、ホントは南を抱きしめたいんだ。
「ごめん、俺もう行くな。じゃ」
「南くん!」
俺は南が去っていくのを見ているしかない。
追い掛ける事はしちゃいけないんだから。
「キヨ、追い掛けて!」
「な、何で俺が…?」
悠ちゃんの意図が読めない。
何でそんな事言うの?
追い掛けたら俺は。
「キヨは南くんが好きなんでしょ?だったら追い掛けて!」
「な、何言ってるのさ。俺が南を好き?…そんなわけない。そんなわけ」
「私は全部知ってるよ?ずっとキヨの事見てたから」
ずっと見てた。
だから、キヨが誰を見てたのか知ってる。
キヨのあんな、…愛しそうな顔見たら誰でも気付くよ。
キヨの本当に好きな人が誰なのか。
「ホントは追い掛けたいんでしょ!?好きだって言いたいんでしょ!」
「…!言えるわけない!南が受け入れてくれるわけないじゃないか!」
あんな常識の固まりな人間が受け入れてくれるとは思えない。
だから気付かれないようにしてたのに。
まさか、悠ちゃんに気付かれていたとは…。
「誰だって告白するのは恐いんだよ?皆、絶対に成功するなんて思ってない」
「でも、異性なら駄目でも友達になれる。同性だとそれすら出来なくなるかもしれない!」
「『かも』でしょ?成功する可能性だってあるじゃない」
「でも…」
恐い。
女の子相手にこんなに緊張したことはない。
「キヨ」
「悠ちゃん?」
「私は千石清澄が好きです」
「悠ちゃん…」
「私は好きな人に告白したよ。だからキヨも頑張って」
「でも」
断られたら。
拒絶されたら。
それを考えたら恐い。
「キヨ!男なら度胸だよ」
「度胸?」
「そ。男なら恐がるな!…断られたら私が貰ってあげるから」
「悠ちゃん…」
なんだろう。彼女に言われると大丈夫な気がしてくる。
「ごめんね。俺、悠ちゃんの事ホントに好きだったよ!」
俺はそう言うと走りだしていた。
南の行きそうな所ならわかる。
「知ってたよ。キヨの事なら何でも」
「南!」
「千石!?」
南を見つけた俺は叫んでいた。
南は俺が追い掛けてきた事に心底驚いているようだ。
しかし、まわりに誰もいなくてよかった。
「どうしたんだよ。如月は?」
「えっ…と。あー、…その」
「何だよ」
なかなか言わない俺にじれたのか、怪訝そうな顔をする南。
言わなくちゃ。
言うと決めたからここまで来たんだろ。
悠ちゃんが折角背中を押してくれたんだから。
「千石?」
「あのね!南に伝えたい事があるんだけど、…聞いてくれる?」
「?別にいいけど」
あー!ちくしょう!
何が聞いてくれる?だよっ!
いきなり弱腰でどうするんだよ…。
「あ、あのね…」
「ん?」
ごくり。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかというくらい、緊張しているのが自分でわかる。
男だろ!
覚悟を決めろ。千石清澄!
「俺は南の事が好きです」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声音だった。
なんだ。
言ってしまえば、なんて楽なんだろう。
あんなに悩んでたのが嘘のように心が晴れていく気がした。
「別に返事とかはいいんだ。俺が伝えたかっただけだから」
「えっ!」
「え?」
今まで下を向いていた南が驚いたように顔をあげる。その顔は薄ら紅潮しているように見える。
えっ!って何?
何で顔赤いの?
期待してもいいの?
期待しちゃうよ、俺。
「えってどういう意味?って聞いてもいい?」
「あー、それはその…」
「南?」
さっきと立場逆転だな。
とか思いながら、南が照れてるのが可愛くてしょうがなかった。
「…返事聞かなくていいのか?」
「聞かせてくれるなら、どうぞ」
「…お前むかつくな」
「そお?…で、返事はイエス、ノー?」
確信があるわけじゃなかったけど、今は返事が聞きたくて俺から尋ねてた。
さっきまで返事はいいとか思ってたのが嘘みたいだ。
南はまた、視線を下にずらしながら小さく何かを言った。
「え?何、聞こえないよ南ー」
「ホントむかつく奴だな。イ、イエスって言ったんだよ!」
「それ、ホント?」
「嘘でこんな事言わない」
「ありがとう!!」
「うわっ!」
あまりの嬉しさに衝動的に南に抱きつく。
南はそんな俺を嫌がらずに受け止めてくれる。
その腕の暖かさとか胸の鼓動が夢でないことを教えてくれた。
「何、にやついてんだよ」
「ふふ、だって嬉しいんだもん」
実ると思ってなかった恋が実った。
これからは、今まで出来なかった分いーっぱい愛してあげるからね、南。
「良かったね、キヨ」
俺は晴れて南と両思いになれた事を悠ちゃんに報告した。
「うん、ありがと。これも悠ちゃんのおかげだよ」
「キヨが頑張ったからだよ。私は背中を押しただけ」
「でも、ごめんね。俺、悠ちゃんにひどい事したのに、報告までして。」
「ううん。報告してくれて嬉しかった。」
「え?」
「私の幸せはキヨが幸せになってくれる事だから。」
そう言った悠ちゃんの笑顔は、俺の心の奥まで染み渡った。
きっと俺はこの笑顔を忘れないと思う。
きみは俺が初めて本気で好きになった女性-ヒト-だから。
---後書き---
元々、BLとドリームな話だったんですけど、めんどくさくなったのでオリキャラで通しました。
女の子から見ると千石みたいな男は嫌なやつですよね。
一番(本当の意味で)にしてもらえないのに、女子の中では一番好きだよ、って。
南はなんか微妙に乙女入ってるし。
まぁ、いいか。
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