[携帯モード] [URL送信]

【好きな人】


「ねえねえ、海堂は好きな子いるの?」

すべては部活も終わり、それぞれ着替えている時に英二が言ったこの何気ない一言から始まった。

口下手で人付き合いの苦手な海堂はこんな恋の話に答えられるはずもなく、ただ顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせていた。
よっぽど恥ずかしいんだろうなぁー、などと他人事のように思っていた俺に英二がとんでもない事を聞いてきた。

「乾は?好きな子いる?」

俺にまで話を振るのか英二…。
心の中だけでがっくりしていると、横から声が加わってきた。

「あー!それは俺も聞きたいっス!」

乾先輩のそんな話って滅多に聞けないっスからねぇ〜などと呑気な事を言いながら、桃城が話に加わってきた。

余計な事を…!

「ねえねえ、乾〜いるの?いないの?」

英二は目を輝かせながら答えを要求してくる。
これはいないと言っても、いると言っても追求してくる気だな?だったら…

「そう言う英二はどうなんだ?」
「へっ?!」

まさか、反対に質問されるとは思っていなかったらしく間抜けな顔で止まってしまった。

「英二が答えてくれるんだったら、俺も答えてあげるよ」
「にゃにそれー!乾ずっこいぞ!」
「答えられないならこの話はもうおしまい」

俺はテキパキと帰り支度をしながら、あえて英二を見ないで言った。

「うーー…。ちぇ。」

案の定、英二は悔しそうに自分も帰り支度を始めた。俺の隣に居た桃城も諦めたようだ。

「海堂、一緒に帰らないか?」

俺はすでに帰る準備を済ませていた海堂に声を掛けた。
ダブルスを組むようになってからは、トレーニング方を教えると言って一緒に帰っている。
まあ、一緒に帰りたいから教えてるっていうのも半分あるんだけどね。
つまり、下心有りって事。

「…別にいいっスよ」

と、言って扉の前で待ってくれる海堂。
なんか恋人同士見たいじゃないか…!などと心の中で喜んでいる様子など微塵も見せずに海堂のそばまで行き、一緒に部室から出た。
約束通りトレーニング法の話やたわいもない話をしながらゆっくりと歩く俺達。浮かれた気分でいた俺だったが海堂の様子が少しおかしい事に気付いた。
そんな海堂が俺に質問をしてきた。

「…先輩は結局好きな人いるんスか?」

海堂は俯いたまま、部室での話を蒸し返してきた。
ぁあ、それが聞きたくて様子が変だったのか。

正直言って、いる。

しかし、それを海堂に言うべきか、言わざるべきか。なんたって、俺が好きなのはこの目の前にいる海堂なんだから。
この時の俺はひどく困った顔をしていたのだろう。
俺が口を開くより早く、海堂が口を開いた。

「言いたくないならいいっスよ」

本当は聞きたくてしょうがなかったのに、困っている先輩の顔を見ていたら自然とそう言っていた。
俺は先輩の返事を聞かずに先に歩きだした。
それにしても何でこんなに気になるんだろうか?
これじゃあ、俺が乾先輩の事好きみたいじゃ…ない…か………………え?俺が先輩を好き?

顔が赤くなるのを自覚した俺は乾先輩に見られないように顔を背けた。
気持ちを自覚してから、心臓がバクバクいっているのがわかる。
なんとか先輩にばれないようにと距離を取ろうと足を動かした時。

「何処行くの?海堂」

先輩に腕を掴まれてしまった。

「べ、別に。」

先輩と目を合わせないようにして、それだけを短く言った。
すると、掴んでいた腕を引き寄せられた。
急な事に抵抗出来なかった俺はそのまま先輩の腕の中に納まってしまった。
とゆうか俺、乾先輩に抱きしめられた!?なんで…。

「まったく、折角人が我慢してあげてたのに。こんな海堂見せられたら止まらないよ?」
「え?」

俺は先輩の言っている意味が分からず顔を上げて、先輩の顔を見た。
そして、すごく熱っぽい先輩の目と合ってしまった。

「さっき、好きな人はいるのかって聞いたよね。…いるよ、俺の目の前にね」

…は?

好きな人はいて、その人は先輩の目の前にいて、先輩の前にいるのは……

「俺が好きなのは海堂だよ」

耳元で言われ、俺は今度は全身が赤くなるのが分かった。

先輩が俺を好き?

「信じられない?俺はいつも海堂の事を見てたし、海堂の事ばかり考えてた。家に居ても、学校に居ても、部活中もずっと」
「なっ!それじゃストーカーみたいじゃねぇか!」
「ははは…そうかもね。でもそのくらい俺は海堂が好きなんだよ」

すごく真剣に言われて、俺は何も言えなくなる。

「海堂は?好きな人いるの?」

ああ、そうか。

こいつは全部分かっていて、敢えて俺に答えを求めてるんだ。
…くそっ、俺は先輩の手の中で踊らされてただけ?

でも、それもいいかもしれない。
俺は口下手で、好きと素直に言えないから。
フシュ〜と息を吐いてから

「俺の目の前でニヤニヤ笑ってるヤツっスよ」

と言ってやった。

「ニヤニヤじゃなくて、顔が緩んでるんです」

ちょっと可愛らしくプンプンと怒ってみる。
いや、俺がやっても可愛くないことは百も承知である。

「それをニヤニヤしてるって言うんじゃねぇのか?」

案の定、海堂はすごく嫌そうな、又は呆れたような顔で言った。

「だって嬉しかったんだよ〜!海堂は俺の事なんてなんとも思ってないと思ってたんだから」
「俺だって何とも思ってないと思ってたっスよ…」

本当に好きな人云々な話をしていなければ、気付かなかっただろうな。
話題を作ってくれた英二に感謝だろう。

「そうだ、海堂。付き合う記念にキスをしないか?」
「…は?」

突然な俺の申し出に海堂は一瞬何を言われたのか分からない顔をしたが、次の瞬間には顔を耳まで真っ赤にさせた。
こういうウブな反応が海堂のいいところだろう。

「ば、ばっかじゃねぇのかアンタ!!」
「バカじゃないよ。俺は何時でも真剣だよ?」

そう言いながら、俺は海堂に顔を近付けていった。
後数センチというところで、海堂の手が顔の間に差し込まれる。

「何、この手?」
「誰もいいなんて言ってねぇだろうが!」
「うーん。でも俺はしたいんだよなぁ。…ごめんな海堂」
「え?」

海堂の手を掴むと下に降ろした。
間髪入れず、海堂の唇を塞ぐ。
もちろん俺ので。

「ん!…んんんーー!」

キスをされながらも怒り続ける海堂。
触れ合うだけのキスだったが、海堂は苦しいのか俺の胸を叩いてくる。
さすがにこれ以上は可哀想なので、名残惜しいが俺は海堂から離れた。

「…はぁ!…ってめぇふざけんなよ!」
「顔を真っ赤にされて怒鳴られても恐くないよ。むしろ襲いたくなるから」
「なっ!襲っ!」
「後、キスの時に苦しくなったら鼻で息をした方がいいよ」
「んな事誰も聞いてねぇ!」

フシュー!と威嚇してくる。でもやっぱり顔は赤いし、耳まで真っ赤だ。
迫力がない。

「うーん。これで苦しいなら、アレはもっと苦しいかもなぁ」
「は?…アレ?」
「ベロ」

んべっと舌を出す。本当はさっきしたかったんだけどね。

「あ、アンタ最っ低だ!」
「だから顔赤くして言っても迫力ないよ?」
「うるせえ!俺もう帰るからな!」
「あっ!待ってよ海堂、一緒に帰ろう!」

怒って先に帰ろうと歩きだした海堂を追い掛けながら、今まだこのくらい関係がいいのかもしれない。
と、乾は幸せを噛み締めながら思ったのだった。



---後書き---
何で一人称が統一できないんだろ?読みづらいったらありゃしない!(でも書きやすいんです)
乾海は甘テイストです。
乾は何でも知ってますという風に海堂をからかってれば良いと思う。
海堂はそんな乾に照れながら怒ってれば良いと思う。
ちなみに私は乾の方が好きです。(あ、どうでもいいですか?)
文中の「ウブなところがいい」は私の意見です。






第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!