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【出会い】
微パラレル


市立不動峰中学校に入学した俺、神尾アキラは部活見学に行こうとしていたところを幼なじみの内村京介に呼び止められた。

「アキラ!テニス部見に行かねぇ?」
「テニス部?俺、陸上部に行こうと思ってたんだけど…」
「まあまあ、陸上は明日でも良いじゃん。テニスでも走れるんだしさ、行こうぜ?」
「う〜ん。そこまで言うんだったらいいけど…」
「よし。じゃあ早速行こうぜ!」

そうして半ば引きずられながら俺はテニス部へと連れていかれた。
この後、運命の歯車がキリキリと音を立てて動きだす。

キリキリ
    キリキリ

と、ゆっくり確実に俺の、いや俺達の運命の歯車が動きだしていた。



「一年二組、神尾アキラです!よろしくお願いします!」

結局あのまま内村に誘われて行ったテニス部に入部してしまった。
見学、体験をしてみたらテニスの魅力に取りつかれてしまったのだ。
内村はしてやったりといった顔をして俺を見ていた。

「一年四組の伊武深司です」

今年の新入部員の人数は少ないらしい。
その中でも目を引くのが、今自己紹介していた伊武である。
彼は綺麗な顔立ちに肩付近まで伸びた髪でとても同じ男とは思えなかった。
さらに口数も少なく、明らかに俺とは正反対のタイプであろうと予想できた。

これが神尾アキラと伊武深司の出会いだった。

一年部員が少ないので、仲良くなるのは簡単だった。
俺、内村、桜井、石田、伊武、森の六人でいつも部活をしていた。
伊武は幼なじみの石田以外とはあまり話さなかったが、この頃から上級生の一年いじめが在ったので仲間意識は強くなっていった。

何かにつけて因縁を付けてくる上級生と乱闘騒ぎになった。
原因は上級生との約束だった。
俺達一年が勝てば試合に出させてくれると言っていたのに、いざ勝ってみるとそんな約束をした覚えはないと拒否されたのだ。
かっとなった俺が殴りかかったのを合図に乱闘騒ぎへと発展してしまった。
当然、俺達は顧問に呼び出された。

「あいつらが先に約束破ったんですよ!」
「いつも殴ってくるのはあいつらの方ですよ!」

今まで何も言わなかったのが爆発して、蓄めていた上級生への文句を顧問にぶちまけていた。

「どうせおまえらが何か言ったんだろ?ったく、何で今年の一年は喧嘩早いんだ…」
「先生!?先生だって、勝ったら出してやるって…!」
「おまえらみたいな一年を試合に出せるわけないだろ。何を勘違いしてるんだか…」
「そんな…!」

結局顧問にも約束を破棄にされてしまい、俺達の試合出場の機会は潰されてしまった。



「ったくよー。あいつらや顧問どうにか出来ねぇかなぁ?…なあ、アキラ」
「ホントだぜ。あいつらよりよっぽど俺等の方が使えるっつーのによぅ」

下校中に内村と今日の事について話し合う。
否、ただどこにも向けられない怒りを発散させていた。

「じゃ、俺こっちだから」
「おぅ、またな!内村」

内村と別れてからMDを聞こうとプレーヤーを探す。
しかし、鞄をひっくり返してもどこにもなかった。
どうやら部室に置いてきてしまったらしい。
急いで取りに戻ろうときびすを返す。

「リズムにのるぜ!」






「いい加減にしろよ!」

部室付近に差し掛かった時、怒鳴り声が聞こえて立ち止まった。

今のは伊武の声?

あの伊武が怒鳴るなんて何があったのかと急いだ。
部室の裏に回って見るとそこには、三人の上級生に対し伊武が一人で何かを取り返そうとしている姿があった。

「それ、神尾のだから返してください」
「部室に置きっぱだったから届けようとしてただけだ!変な言い掛かりつけてきてんじゃねーよ!」
「なら、返せよ。どうせ自分達の物にしようとしてたんだろ?」


あれは……俺のMDプレイヤー?!

伊武が先輩達から取り返そうしていたのは俺が部室に置いていってしまった、MDプレイヤーだった。

伊武はいつも一人でいることが多かったから、俺達の事をあまりよく思っていないのかと思っていた。
一緒に居てはしても、それは石田がいるからだろうと思っていた。
でも、それは勘違いだったんだ。
ちゃんと伊武も俺達を仲間と認めてくれていた。
その事が何故か凄く嬉しかった。

「てめぇ!さっきから先輩に向ってなめた口ききやがって!!」

伊武の態度に切れた先輩の一人が拳を振り上げた。

危ないっ!と思って飛び出しかけたとき、少々信じられない事を目にしてしまった。

拳を紙一重でかわした伊武が先輩の顔面めがけて殴ったのである。
その事で他の先輩達も次々に殴りかかるが、すべて紙一重でひらりとかわし、一撃で倒してしまった。

俺は伊武の外見だけをみて大きな勘違いをしていたらしい。

同じ男と思えない?

今、目の前に立って先輩達を見下ろしているアイツのどこをみたら女と間違えるというのだ。
もしかしたら、自分より強いのではないかと身震いする神尾。
その時、伊武がちらりと神尾の方を向いた。
やましい事はしていないのに何故か、しまったと思ってしまった。

「よ、よぅ!お前結構強いんだな…」
「まあ、キミよりはね」
「うっ!」

言われたくない事を言われてしまった。

「はい。コレ、神尾のでしょ?」

そう言って伊武はMDプレイヤーを差し出す。
それを見て、こいつはあまり話したこともない俺の為に体を張って取り返してくれたのかと、そう思ったら凄く気恥ずかしい様な嬉しい様な複雑な気持ちになった。

「あ、ありがとう…」
「どういたしまして」

何となく伊武がどういう人間なのかわかった気がした。
普段は人を寄せ付けない雰囲気を出す一人狼みたいなのに、本当は誰よりも友達や仲間思いのやつなんだと。

「なあ!俺も石田みたいに『深司』って呼んでいいか?」
「別にいいけど。俺は皆みたいに『アキラ』とは呼ばないよ?」

この事がきっかけで俺と深司は部内でも仲のいい親友になったんだ。




数週間が経った時、一人の転校生がやってきた。

「二年の橘だ。俺より強いと思う奴は前に出てこい」

部活に来るなりそう宣言した彼に面食らいながらも、俺達一年は前へ出た。
三年の先輩にも勝てるし、二年生の転校生に負けるとは思わなかった。

しかし、結果は惨敗。
自信を打ち砕かれた様だった。

「お前等、一年なのにいいセンスをしてるな。お前等と俺ならこの部活を変えられるかもしれない。どうだ?」
「俺たちで変える?」
「そうだ。俺たちの新テニス部を作るんだ」
「俺たちのテニス部……!」

こうして、俺たちは橘さんの下、新制テニス部を作った。
途中、顧問や先輩たちの邪魔が入り、その年の大会には出れなくなってしまったが…。




そして一年後。
橘さんは三年に俺たちは二年に上がっていた。
昨年、暴力事件があったからか新入生は一人も入らなかった。
顧問も勝手にしろ、と言った風で橘さんがコーチ兼部長になった。

そして、地区大会決勝。
俺たちの相手は青学。
ダブルス2は相手の怪我により棄権勝ち。
ダブルス1は全国区と言われる黄金ペアに奮闘するも2-6と惨敗。
シングルス3は俺、神尾対海堂。
スネイクは打ち返せたが、奴の粘りに5-7で負けた。
シングルス2は深司対越前。
深司がスポットを完成させるが、相手が目に怪我を負うアクシデントが起こる。
怪我をしながら強くなる越前に深司も奮闘するが3-6で負けてしまった。
俺たちは橘さんまで回すことが出来ずに負けてしまった。
橘さんはそれでも二位だったのだからと慰めてくれた。
橘さんだって悔しいはずなのに…!

都大会では、準々決勝で氷帝を下すも準決勝の山吹戦に来る途中に俺たち二年生は事故にあってしまい、棄権せざるをえなくなってしまった。

それでも何とか関東大会まで来れた。
一回戦を難なく勝利し、二回戦で山吹に雪辱を果たした。
俺はあのJr.選抜出場者の千石さんと当たった。
危うい場面もあったけど、あきらめることだけはしなかった。
これは地区大会での海堂に教わった事かもしれない。
準決勝で王者と呼ばれる立海と試合。
俺は深司とダブルスを組んだが、相手は三強の内の二人である真田と柳。
まったく歯が立たなかった…。
橘さんは切原からの執拗な体への攻撃に為す統べもなく負けてしまった。

それでも橘さんは何も言わなかった。
後で杏ちゃんに聞いた話だが、橘さんも昔は切原のようなプレーをしていたらしい。
もしかしたら自分と切原を重ねて見ていたのかもしれない。

全国大会も終わり、別れの季節になろうとしていた。
橘さんが部活を引退し、そして卒業してしまう。
まるで支えを失ったかのような気分に俺たちはなってしまった。

「もうお前たちも、俺がいなくても大丈夫だ。お前等六人が力を合わせれば何だって出来るさ」

そう言って橘さんは不動峰中を卒業した。
「高校でもテニスを一緒にしよう」と約束を交わして。

俺たちの新しい一年が始まろうとしていた。



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