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【親友】
鳳宍【記憶】の前の話


春菜が死んでから一ヵ月。
もう一ヵ月が過ぎてしまった。


「いつまでそうしてるつもりだ?」
「…跡部」

俺はいつまでもウジウジといじけたままの宍戸に痺れを切らし、少し怒りを匂わせながら話し掛けた。

春菜がいなくなってしまってからの宍戸は、とても生きているとは呼べなかった。
食事はきちんと取っているし、睡眠だって大丈夫だ。
しかし心が生きる事を諦めた目をしていた。

俺はそんな宍戸にイラつきながらも心配だった。
小学校からの付き合いだからと自分に言い聞かせていたが、それとは違う別の感情がある事に最近気付いてしまった。

俺は―――。


「いい加減現実を見つめろ」
「…俺の事なんかほっとけよ」
「ほっとけるわけねぇだろ!俺はお前が…っ!」
「跡部…?」


――――好きなんだ。


でも、俺からその言葉が出る事はなかった。
まるで失恋の痛みに塩を送るような気がしたし、春菜への気持ちも嘘になってしまう気がしたから。

「…親友を心配しちゃいけねぇのかよ?ジローだって心配してんだよ…」

急に俯いて、絞りだすような声で話す俺を宍戸はどんな気持ちで見ていたんだろうか。

「…わりぃ」

宍戸はその一言を呟くと、俺を避けるように立ち去った。



*************

それから一年が過ぎ、宍戸の傷も癒えたように見えていた。

死んだ目をしていた奴が、笑うようになったのだ。
たぶん…いや、きっと宍戸の傷を癒したのは新入生の鳳だ。

人と接するのを避けていたあいつが自分から関わりを持った人間。

ずっと俺が助けてやりたかった宍戸をあっさりと横から来て救った一年部員。

だから、宍戸が嬉しそうに鳳の事で話し掛けてきたときは、心底ムカついたものだ。

「なぁ、跡部。あいつのサーブ見た事あるか?」
「あいつ?」
「一年の鳳だよ。めちゃくちゃはぇーんだぜ!きっとサーブだけならお前よりも凄くなるだろうな」
「……鳳…ね」

まさかこの後、宍戸の言うようにサーブだけで上がってくるようになるとは思いもしなかった。


たぶんこの頃からだ。
自分の中の気持ちが変わってきたのは。


宍戸がレギュラー復帰をした日。

「短くなっちまったな、髪」
「あぁ。でも、長太郎とテニスが出来るなら大した事じゃねぇよ」

真っすぐ前を見つめる宍戸。
この俺が思わず見惚れてしまいそうなくらい凛としていた。

「…鳳が好きなのか?」
「…ん、わかんねぇ。後輩として気に入ってるだけかもしれねぇし、それに…」

そこで言葉が途切れる。
伏せた目に映っているのはきっと春菜の姿だろう。

またあんな思いをするのは嫌だ…か。

「また何も言えないまま終わりになりてぇんだな」
「そういうわけじゃ!…わかんねぇんだよ、自分の気持ちなのに」

「俺は、応援してやる」

俺の言葉が以外だったようで、宍戸は目を見開いて驚いた。

「あの時言っただろ?親友だって。あの頃から俺の気持ちは変わってねぇよ」
「あ、跡部…。…恥ずかしい奴だな…」
「こんな事で恥ずかしがってんじゃねぇよ」
「…ありがとよ」



この後、宍戸と鳳は運命の悪戯に巻き込まれる。
宍戸が挫けそうになるたびに俺は背中を叩いてやった。


「跡部も亮ちゃんの事好きだったんでしょ?…何で応援したの」

ジローに真顔で聞かれる。
こいつも宍戸が好きだったからな。
俺の行動がわからないといった顔をしている。

「お前と同じだ。好きだから幸せになってほしい。でもそれは俺ではダメだった。それだけの話だ」
「俺は気持ちを伝えたから諦めもつくけど、跡部は諦められるの?」
「諦める?」

その時、俺の顔を見ていたジローの肩がビクリと動く。
そして信じられないものを見る目で見つめてきた。

俺は自分でもわかるくらい、凶悪な顔で笑っていた。

「俺は宍戸の親友だからな。諦めなくたって、あいつの傍にいつだっていられる。絶対に揺るがない地位を手にしてんだよ。あいつを後ろから支えられるのは俺以外にはいねぇ。それを何で諦めなくちゃいけねぇんだ?」
「跡部…何で…」

ジローはまた止まった涙腺が揺るだのか、目に涙をためた。

宍戸が壊れないようにと頑張っていたが、いつのまにか壊れていたのは俺だったのか?

でも…恋人なんて、いつ壊れるかわからない関係なんか興味ない。
それより、親友という絶対的な関係の方がいい。



俺は鳳とは別の形で宍戸を手に入れたんだ。
嬉しそうに笑う宍戸を横目に見ながら、俺はほくそ笑むのだった。



---後書き---
うわっ!跡部こえー!
という話になってしまいました。
鳳宍SSの『記憶』(読んでない人は読んでみてね)での跡部とはもしかしたら違うかもしれない。
でも、こんな跡部も居たかもしれないifの話。
『記憶』では、宍戸の背中を押してくれるいい人のポジション以外ではあまり出番がなかったからね。
実はこんなドロドロとした感情を抱いていたら…。恐いです。
いい人では終わらせないのが管理人です。
跡部は役者だから(?)一生、宍戸に気持ちを気付かれないで生きていくと思います。
それが幸せなのか不幸なのかはわかりませんがね…。

(06.10.01)






あきゅろす。
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