[携帯モード] [URL送信]

【今日は何の日?】
チョタ誕&バレンタイン祝


今日、二月十四日は特別な日だ。

世の中の女子が、意中の相手に思いを伝える決戦の日。

そして此処にも決戦に赴こうとしている若人が。


「宍戸さん。今日が何の日か知ってますか?」

決戦に赴いた若人――鳳長太郎は、放課後になっても何の動きも見せない一つ年上の恋人、宍戸に問い掛けた。
自分から催促する事のなんと悲しい事か。部活後の部室には既に誰も残っていないのが唯一の救いか…。
このまま何も言わなければ何も起こらないまま一日が終わってしまう。
それは何としてでも避けたい事だった。

「今日?…バレンタインデーだろ?」

何を言ってるんだ?馬鹿にするな。という目を鳳に向けながら答える宍戸。
わかっていて何故何もしてくれないのかと、肩を落としながら、もう一つ質問をしてみた。

「……バレンタインの他では?」
「他?…お前の誕生日だろ」

ダメ元で聞いた質問に、きちんとした答えが帰ってきて、鳳は驚いた。
そして叫ばずにはいられなかった。

「どうして知ってるのに何もしてくれなかったんですか!?」

自分でもなんて惨めな叫びなんだろうと思う。
しかし待ちに待った重大イベントを恋人に祝ってもらえずに終わるというのは、いくら何でもひど過ぎる。

「あー…、いや、忘れてたわけじゃねぇんだけど、言うタイミングがわかんなくてよ…」

バツが悪そうに、短い髪をガシガシと掻きながら苦笑いする。

「じゃあ今言ってください」

何とも子供っぽい言い方だと思いながらも催促する。
この際、言葉だけでも言ってほしかった。

「そう…だな。…長太郎。誕生日おめでとう」
「宍戸さん…!」

普段見せないような笑顔で祝いの言葉を伝える宍戸に、鳳は胸がいっぱいになる。
そして、宍戸を抱き締めるとお礼を言った。

「有難うございます、宍戸さん。最高に嬉しいです!」
「お、おぅ。…………なぁ、プレゼントなんだけどよ…」
「あるんですか!?」

諦めかけていたプレゼントがあるのかと、鳳は嬉しそうに尋ねる。

「いや、無い」

しかし、無常にも宍戸の口から出たのは正反対の答えだった。
天国から地獄に落とされたような気持ちになる鳳。
そんなあからさまに落ち込んだ鳳を見て、宍戸も申し訳なさそうにする。

何かあげられる物は無いかと制服のポケットを探ると、手に何かが触れた。

「あ。」
「宍戸さん?」

急に何かを思い出したかのような声をあげた宍戸に、鳳は不思議そうに顔を覗く。

「そうだ、アレがあったんだ」

独り言のようにブツブツ言いながら自分のロッカーに近付くと鞄の中を探りはじめた。
急な宍戸の動きに全く意図が掴めない鳳は一人取り残されたように宍戸の次の動きを待つしかなかった。

暫らくして何かを探り当てた宍戸が鳳の前に戻ってくる。
手には、小さな箱を持っている。
その箱は可愛らしくラッピングされており、宍戸が持つには不釣り合いな気がした。

「ほら、今日はバレンタインでもあるだろ?チョコなら安いのあるし、買っといたんだよ」

この時期のチョコレートコーナーは女子で賑わってしまうので母に頼んで買ってきてもらった、などと頬を赤らめながら言う宍戸を鳳は何も言わずに見つめていた。

「ごめんな…自分で買ったヤツじゃなくてよ…。誕生日プレゼントも用意出来てねぇし。激ダサだな、俺…」
「え?…ち、違います!そんな事ないですよ!」

何も言わない鳳が、自分に呆れてしまったのかと思った宍戸の声音がだんだんと小さくなる。
そうして、やっと鳳は放心状態から戻ってくると、慌てて弁解した。

「すっごく嬉しくて、言葉が出なかったんです。本当にチョコ、有難うございます」
「長太郎…」

嬉しそうに微笑む長太郎につられるように、宍戸も微笑んだ。

「あ、あの食べてもいいですか?」
「お、おぅ」

宍戸から了承を得ると鳳は包装紙を剥がし、箱を開けた。
中には大小様々な形のトリュフが入っていた。
鳳はまず目で堪能した後、一つ取ると口に運んだ。

「んん…うん!おいしいです!」
「そ、そうか」

満面の笑みを浮かべて、おいしい・おいしいと言う鳳に、宍戸は嬉しい様な気恥ずかしい様な気持ちで答えた。

「味見してなかったから、気になってたんだよな……あ」
「味見?」

自分の失言に気が付いて、咄嗟に口を押さえるが、時既に遅し。
ばっちり鳳には聞かれてしまったようで、聞き返されてしまった。

「これ、宍戸さんの手作りなんですか?」
「う。…そうだよ。材料は母さんに買ってきてもらったんだけどよ。本見ながら作った」

宍戸は恥ずかしそうに語った。
そんな宍戸を見て、鳳の心になんとも言い表わしがたい気持ちが生まれる。

嬉しいとか抱き締めたいとか、そんな気持ちが主だったけど。

「宍戸さんってお菓子とか作れましたっけ?」
「料理はするけど、菓子作りは初めてやった」
「初めてでトリュフですか!?」
「な、何かダメなのか?」

いきなりの鳳の大声にダメ出しされたのかと、不安になる。

「あ、違います!…普通は初めてならもっと簡単なものから入るのに、宍戸さんは凄いなぁと思って…」
「そういうもんか?」
「はい!凄いですよ。すっごくおいしいから初めてなんて気付きませんよ」
「ちょっと言いすぎじゃねぇか…」

あまりの鳳のベタ誉めに文句を言うが、それが宍戸の照れ隠しなのだという事は赤くなっている頬を見れば一目瞭然だった。

「さっき味見してないって言ってましたよね、宍戸さん」
「ん?…ああ。自分で味を確認してねぇのを渡すのはどうかと思ったんだけどな」
「食べます?」
「え?でも…」

鳳の突然の提案に戸惑う宍戸。
あげたものを貰うという行為を後ろめたく思っているのか、歯切れが悪い。

「俺からのバレンタインチョコだと思ってくださいよ」
「う〜ん。じゃあ…一個だけ」

宍戸のその一言を待っていたかのように鳳はチョコを一つ取ると自分の口に含んだ。
くれると言っていたものを鳳自身が食べてしまい、宍戸は訳が分からずに怪訝そうな顔をした。
鳳はそんな宍戸を見て、にこりと笑いながら頬に手を添えると口付けた。

「んん!?」

不意の出来事に反応の遅れた宍戸は、鳳の舌を拒む事が出来なかった。
そして、舌と一緒にまだ崩れてはいないチョコが入ってくる。
甘い味が口の中に広がり、口移しでチョコを食べさせられてる事に気付いた宍戸は必死に鳳から逃げようとするが、動き回る舌と甘い味に翻弄されてしまい力が出なかった。
鳳は宍戸とチョコの味を堪能するとゆっくり口を離した。

宍戸は飲み込めらなかった唾液を拭うと、満足そうな顔をしている鳳を睨み付けた。

「おいしかったですか?」
「!…お前、よくそんな事が言えるな…」

何事もなかったように味を聞いてくる鳳に宍戸は怒りではなく、呆れが込み上げてきてしまった。
自分がこんなだから、鳳が調子に乗ってしまうのかもしれない。
そうは思うが、何故か怒る気になれないのである。

「お前、ホワイトデーは覚悟しろよ?」
「宍戸さんのお願いなら何だって聞きますよ?」

にっこり笑って言う鳳に、宍戸は一瞬面食らった顔をしたあとにため息をついた。

「はぁ、ホントお前って…」
「何ですか?」

宍戸は少し考える素振りをしてから、鳳の目線を自分に合わせるように屈ませる。

「お前ってホントに俺の事好きなんだなぁって」
「なっ、当たり前じゃないですか!」

こんなに何時も愛を注いでいるのに何をいまさらと、鳳は声をあげる。

「うん。で、俺も長太郎の事、好きだなってさ」
「宍戸さん…!」

少し照れ臭そうに告げる宍戸を鳳は抱き締めた。

「もう!一番のプレゼントですよ!」
「ははっ。プレゼントは俺の気持ちってか?」

宍戸は笑いながら鳳の背中に腕を回すと、抱き締め返した。

「ホワイトデーは三倍返しですよね!」
「げっ」
「げってなんですか!?」
「いや、何時も三倍くらいなのにそれ以上って何されんのかと思って…」
「さあ?…覚悟しておいてくださいね」

さっき自分が言った事を反対に言われて、宍戸は背筋に悪寒が走った。
少しプレゼントをあげすぎてしまったらしい…。




---あとがき---

うちの宍戸さんは料理上手です。



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!