[携帯モード] [URL送信]

【夢】三万打記念


「え…、プロ目指さないんですか!?」
「そんなに驚くことかよ…」

大声を出した俺に、宍戸さんはしかめ面をするけど、驚くのは当たり前だと思う。
だって、宍戸さんはテニスを続けるんだろうな、と何故か漠然と思い込んでいたから。


昼の屋上には生徒も少数だが、チラチラといる。
俺と宍戸さんもその中の一人だ。
いつもと同じ何も変わらない平凡な昼休みになるはずだったのに、たまたま聞こえてきたカップルの話から思いもよらない展開になった。

将来の夢。

さっきは宍戸さんの言葉に驚いたけど、俺もプロにはならない。
父親と同じ弁護士になるのが小さい頃からの夢だったから。

「別にプロにならねぇから、部活は遊びってわけでもねぇぞ」
「それは一緒にやってる俺が一番わかってます!だから余計にびっくりして…」
「考えた事がないわけじゃねぇんだけどよ…」

宍戸さんは食べかけのサンドイッチを平らげると、ポツポツと話始めた。

「前の俺ならプロになるって言ってたかもな。あの頃は自分が強い、誰にも負けないと思ってたからな」
「じゃあ、負けたから?」

あの時の事が思い出される。
不動峰の橘さんと試合をして負けてしまった宍戸さん。
あの時は我が目を疑った程だ。
あの頃は特別親しかったわけでもないけど、宍戸さんの強さには憧れていた。
パワーばかりの俺とは違って、テクニックもスピードも持ってる宍戸さんが羨ましかった。

「アレで気付いたんだよ。俺レベルじゃプロにはなれないってな」
「でも、やってみなくちゃわからないじゃないですか」
「プロってのは、跡部や手塚みたいな奴が目指すもんなんだよ。俺がどんなに努力したって、凡人には越えられない壁ってヤツがあんだよ」
「……っ」

それは確かにそうだけど…。
跡部さんも手塚さんも天才でありながら努力してる。
才能のない人がどんなに努力しても、才能ある人に努力されては勝ち目がない。

「でも宍戸さんなら…」
「俺には別の夢があんだから、あきらめろ」
「別の夢?」
「教師になる事」
「え?」

教師って先生だよな。
思ってもいなかった言葉にポカンとするが、宍戸さんのお父さんは確かに先生をしているんだと思い出す。
俺と同じ、親の職業を継ぐという事なのか?

「お前と一緒にいるうちにさ、誰かにモノを教えるってのもわるかねぇと思ってよ。勉強教えつつ、テニス部の顧問でもしてぇな、っと」

テニス部の顧問…。

「コーチとかは?」
「あー、別にプロを育てたいわくじゃねぇからなー。ガキどもに教えられたらいいなくらいなんだよ」
「いいですね」
「何が?」
「宍戸さんに教えてもらえる子供たちが、です」

宍戸さんは、遊び程度くらいしか考えてない風に言ってるけど、きっと真剣なんだろうな。
本気で教えてくるようとしてる人に指導してもらえるのって、凄くいい事だと思う。

「宍戸さんなら、きっとみんなに好かれるいい先生になると思います」
「ありがとよ。ま、その為にはテストを頑張らなきゃいけないわけなんだが…」

若干青ざめながらジュースを啜る宍戸さん。
中学生の俺たちにはまだまだ先の話だけど、今やれる事をやって後悔のないようにしたい。

俺も、もちろん宍戸さんも。
大人になったらテニスから離れて、俺たちも離ればなれになるかもしれない。
そんな時に後悔しないように、今テニスも本気でやるし、宍戸さんとも一緒に居たい。

「宍戸さん、どっちが先に夢を叶えられるか競いませんか?」
「お、いいぜ。負けて、年の差を言い訳にすんなよ?」
「しませんよ!宍戸さんこそ親とかの事言わないでくださいね」

未来。二人で笑って報告出来るように。






それにしても宍戸さんは、この約束が大人になっても一緒に居るって事になることに気付いてるんだろうか?
気付いてないんだろうな…。



---あとがき---

唐突に始まり、唐突に終わる。
半分書き終わってから気付く。
こいつら、中学生だった!!



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!