夢を見た
俺が駆け付けた頃には、既に彼女は帰らぬ人となっていた。
閉じた目。もう二度と俺を見てくれる事はない。
開かれる事のない口。もう二度と彼女とは話せない。
動かない冷たい身体。もう二度と抱きしめて、温かさを感じる事はない。
どうして俺を置いて一人で逝ってしまったんだ。約束したのに。「ずっと一緒にいてあげる」って笑ってそう言ってくれたのは、お前の方だったじゃないか。
「そんな夢を見たんだ」
「そう?でも私はここにちゃんといるよ。だから安心して」
そう言って抱きしめてくれたその腕は温かった。
数日後。
「…夢を見たんだ」
「いつもの夢?」
「そう。だから俺にはもうあれが夢なのか、今のが夢なのか分からないんだ」
「私はちゃんとここで生きてるよ?でも…貴方にとって夢だといいのはこっちの方なのかな」
「違う!お前が生きてる方がいいに決まってるだろう!」
「なら、それでいいじゃない。私は生きてる、死んでしまったのは夢。大丈夫、不安にならないよう今日はずっと一緒にいてあげる」
「俺は…もう二度とあんなの見たくない…!お前がいないと生きてけないぐらい、お前を愛してるんだ」
「…うん。私も愛してるよ」
俺を優しく抱き寄せ、優しく背中を撫でてくれる。あぁ、温かい。
顔を胸に埋めると、小さく心音が聞こえてきたのに酷く安心した。
ちゃんと生きてるんだ、とそう思ったら眠くなってきた。
「眠い?寝ていいよ」
「またあの夢を見なくていいように、俺が起きるまでこのまま抱きしめててくれよ」
「安心するから?」
「あぁ」
「早く…夢…、見なくなるといいね」
俺はそうだな、と呟くと静かに目を閉じた。
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