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たまたま、そう。
たまたま彼の後ろ姿を見つけて追いかけてみたら聞こえてきてしまっただけなんだ。
別に盗み聞いたとか、そんなじゃなくて。

寧ろ出来れば聞きたくなかったね。

「学校、一緒に帰れば良かったのに。帰ってから呼び出すなんて珍しいな」

鮫川土手の小さく開けた公園に設置された東屋。
彼はそこに向かうと、待ち合わせをしたのだろう、先に東屋のベンチに座っていた人物に小走りで近寄り話かけた。

「ま…うん。しっかり話しておきたかったからさ」

「ん?深刻な話?」

そう言いながら真面目な顔をして向かいのベンチに座る。

単なる遊びの待ち合わせなら、すぐに出ていって彼に話かけるつもりだったのだけど、深刻な話だと聞こえたら出るに出れない状況になってしまった。

せっかく偶然出会うか、堂島家へ行きでもしない限り中々会えない彼を見つけたのに、ここで見なかったふりをして帰るのは勿体無い。
そう思って会話が終わるまで、少し待ってみる事にした。

高校生の深刻な話はきっとろくでもない話だろうし、彼等ならもしくはテレビの中の話だろう。

別段どうでも良さそうな話なら、割り込んでやればいい。

「あのさ、鳴上。今から話す事は、嘘でも冗談でもないからな」

「…ん、何?」

あれあれ。何か本当に深刻?

東屋の一角だけ空気が重たい。
少し離れた場所にいる僕でさえ感じる空気なのだから、重たい話をするのだろう。

…高校生ならではの恋の悩みとか。

ジュネスの彼は確か死んだ小西早紀が好きだったはず。
死んだ人間を想っての重たい話か?

「こないだ殴り合いしたじゃん?俺さ、あんときに本当、言っちまおうかと思ったんだけど。何か今の関係崩すの怖くてさ。なかなか言えなかった」

「何?関係を崩すとか、あんだけ殴ったくせにまだ言ってなかった事あったのか?」

別段怒ったような素振りもなく、ただ少し苦笑を交えて彼は肩をすくめた。

殴り合い…?
それで彼、顔に絆創膏貼ってた時があったのか。
てっきりテレビの中で付けられた傷だと思ってた。
綺麗な顔が勿体無い、とも。

「や、不平不満とかじゃねぇんだけど。あー、うん。こんなんじゃ伝わんねぇよな!」

「陽介??」

「俺さ、お前の事好きなんだよ!」

ジュネスの彼は立ち上がったと思ったら、結構大きな声でそう叫んだ。

……はぁぁぁあ?

恋の悩みっておい、間違ってはいないけど、そうきたか。
ちょっとちょっと。

立ち上がったジュネスを彼はポカンとした顔で見つめている。

確かにそうだ、普通そんな反応だよね。

「うん。俺も陽介の事、好きだけど?」

少し間が開いた後、彼はそんな返事を返した。

「……あ、あぁ。いや、違う。鳴上お前、そっか。鈍いんだな…」

「鈍いとは何だ、失礼な」

「だから…、俺はライクじゃなくて…ラブだっつってんの!!」

鈍いと言われて少しムッとした顔を見せた彼は、ジュネスの言葉に少しづつ驚きの顔へと表情を変えた。

こっちが驚きだよ。

「あ…え?えぇ!?」

「ようやく理解したか?」

「えと、雪子とか千枝とかの予行練習じゃなくて?」

「あのなぁ、最初に嘘とか冗談じゃねぇって言っただろうが!」

彼はそう聞くと、少しづつ頬に赤みが射し始め、すぐに夕陽のせいなんかじゃないとわかるくらいに赤くなった。




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