帰りが遅くなるので夕飯はいらない、と菜々子ちゃんに電話する悠くんに、『もうすぐ暗くなるし、遅くなってから帰すのは危険だから、泊まっていけばいいよ』と言うと、素直にそう伝えていた。 ずっと考え込んでいる悠くんは口数少なく、僕の家へと向かう。 家に着き、悠くんを狭いリビングへ通すと、今日は元々珍しく自炊する気でタイマーセットしておいたご飯が炊けているかチェックし、スーツのジャケットを脱いだ。 「足立さん、自炊するんですね。意外」 「たまにはねぇ。給料日前くらいになるとやんなきゃって気になるよ」 笑ってみせると、悠くんはようやくふっと笑みを零した。 どんだけ切羽詰まってんの、君。 「よーし、張り切って作りますかぁ」 冷蔵庫からキャベツを取り出し、冷凍していた肉をレンジで解凍する。 やるって言っても野菜炒めくらいなんだけどさ。 キャベツを切り始めると、悠くんがチラチラと手元を覗き見ているのかわかった。 「…?どうしたの?」 「あ、何だか足立さんの手付きが怖くて。良かったらやりましょうか?」 確かにあまり包丁を握らない僕は、余所のご家庭から聞こえてくる『トントントン』という小気味良い音ではなく、『ザクッ…ギリギリ…ザクッ…』と、惨殺現場のような擬音が良く似合った。 「あはは、じゃあお願いしようかなぁ」 「任せて下さい。野菜炒めですか?」 そう。と伝えて包丁を手渡し、キッチンの横へズレると、悠くんは手慣れた感じであの『トントントン』という音を響かせた。 「お肉は…わっ、これ丸々使ったら多すぎますよ。半分くらいで…」 そんな事を言いながら、悠くんはあれよあれよと1人で野菜炒めを完成させていく。 料理中の悠くんの顔からは先程の深刻さが嘘のように消え、思わず同棲しているような錯覚に陥ってしまった。 |