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言葉だけじゃ足らない ×食満






「じゃ、そろそろ部屋に戻るわ」
「…う、うん」



夜、留三郎は私の部屋に訪れた。恋人同士だし、部屋に来た理由なんていちいち聞いたりしないけど、別に何をするわけでもなく留三郎は部屋を出ていくから、聞きたくなる気持ちにもなる。




「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」



“おやすみ”…そう呟くと、いつの間にか留三郎は居なくなっている。



明日も来るかなぁ?



















翌日の夜、また留三郎は私の部屋を訪れた。



今日、また潮江くんと喧嘩した話とか、同部屋の善法寺くんが作った妖しい薬を飲まされそうになった話とか聞かされた。留三郎の話を聞くのは嫌いではない。むしろ彼が笑顔で話してくれるから、私は嬉しいんだ。



「…でな、伊作の奴」
「ふふふ」
「…何がおかしいんだよ?」



一生懸命話す留三郎の話を私が止めてしまった。だって、あまりに熱く語ってくるから。




「ゴメンね、止めて。続けて」
「なぁ?」
「何?」
「つまんない?」
「え?」
「俺の話」




いきなり声が低くなったから驚いた。私が笑って、彼の話を中断させてしまったから留三郎の機嫌を害ねてしまったのかもしれない。



「そんなことないよ。楽しいよ、留三郎の話聞いてるの」
「嘘だろ?」
「うそ?」
「おお。…なんか、退屈そうだし」
「そんなわけないじゃん。私、留三郎の話好きだよ」



不満そうな顔になったかと思えば、今度は悲しそうな顔をする彼。







「私、留三郎のことが好き」
「な、何だよいきなりっ…」



自分でもわからなかった。どうして今この言葉が出てきたのか。




「留は?」
「俺?」
「留三郎は私のことをどう思ってるの?」
「どう?…って、好きに決まってるだろ。付き合ってるわけだし」



そう。留三郎はいつもそう言うよね。“好きだから付き合ってる”。確かにそうなのはわかる。だけど留三郎は“好き”って言葉以上は私に何も伝えてくれない。私も留三郎のことが好きで、留三郎も私を好きと言ってくれる。それだけでも満足しなければ行けないのかもしれない。だけど私は、私はそれだけじゃ足らないの。言葉だけじゃ足らない。我儘なのかもしれない。こんなこと言ったら、留三郎に嫌われてしまうかもしれないのに。



私は、それ以上のことを求めてしまうんだ。






「留三郎…」
「?」
「私に、キス…できる?」
「…は!?お前、何言って…!」
「ねぇ、できる?それともできない?」




私の目線から留三郎は逃げようとしているのがわかる。そんな風に彼を困らせて、私何がそんなに楽しいの?私って本当に最低かも。






「ゴメンなさい、冗談だよ。ちょっと私どうにかしてたかも」
「いや…」
「だけど、留三郎のことは好きだから」
「………」
「愛してる…から」



彼にもたれかかって、彼の体温を感じた。こんなに優しい彼にこれ以上何を求めれば気が済むというのだろうか。





「俺も名前のこと、愛してる」






だけど、またきっと“それ以上”を求めてしまうんだ。言葉だけじゃない、別の形のなにかを。








言葉だけじゃ足らない













後書き
10000hitお礼企画リクエスト第1位のお題《言葉だけじゃ足らない》です。切ないお話にしたかったのは勿論ですが、何故だか暗いお話になってしまった気がします。キスでなく、それ以上の表現にするつもりが…私の中で勝手なNGが出ました。1万hitありがとうございました!
20100227 まぇ







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