居酒屋で恋して
居酒屋で恋して 7
「颯人さん!!」
僕が颯人さんの身を案じて咄嗟に叫ぶ、と同時に。
ドスッ!
・・・一瞬だった。
目にも止まらぬ速さで、颯人さんの右ストレートが男の鳩尾に決まったのは。
男は呻き声をあげてから地面に倒れ、それきり立ち上がらなかった。
颯人さん強い!
僕はホッとして力が抜けた。
そんな僕に颯人さんが駆け寄ってきてくれ、僕を包み込むように腕の中に抱いてくれた。
あったかい。
颯人さんの温もりに僕は不意に涙が溢れてきた。
それに気付いた颯人さんは、頬に伝わる涙を指先でそっと拭ってくれた。
「チィ、ごめんな。俺が外で待たせたばっかりに、こんな目に合わせてしまって。」
僕は首を横に振った。
だって颯人さんは何も悪くない!
それどころか助けに来てくれたんだもの。
「チィ、これからは何があっても俺がチィを守るから!」
颯人さんは僕に視線を合わせ、真剣な面持ちで力強く言ってくれた。
僕はその言葉を聞いて安心してしまい、颯人さんの胸の中に気絶するように倒れ込んだ。
ザザァー・・・。
何の音だろう?
ボヤけた思考のまま意識が覚醒して、重たい瞼をゆっくり開けた。
「まぶしぃ・・・。」
照明が明るくて一瞬クラクラしたけど、だんだん慣れてくると、今寝ている場所が自分の部屋ではないことに気付いた。
「ここ・・・どこ?」
目を凝らして回りを見渡した。
和風だぁ。
畳じゃないけど、濃い色の木目張りで床も天井も壁も統一されている。
三角椎のような形の和紙のランプが薄型テレビの近くに置いてあって、窓には簾がかかっている。
小鉢と大きな鉢の観葉植物があちこちに飾られていて、凄くお洒落だ。
「素敵な部屋だなぁ。」
僕がポツリと呟くと。
「気に入ったか?」
聞き慣れた颯人さんの声が返事をしてくれた。
「・・・颯人さん?」
一体どうして颯人さんが?
働かない思考でボヤッとしていたら、先程の事が目まぐるしく思い返された。
「あっ!」
自分の身体をギュッと抱き締めた。
「チィ・・・。」
颯人さんがベッドに腰をかけてから、震えている僕の肩に手を置いた。
「もう大丈夫だから。俺がずっと傍にいるから。安心しろ。」
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