深読みしちゃうの(kao様への贈り物)※黒バスBL注意

※黒バスBL、高緑。閲覧注意。





「高尾」

「ん?なーに真ちゃん」

「昨日頼んだ物理のノートだが」

「あぁ物理の…あーーーーーーーーーーーーーっ!!」

練習後の部室に高尾の声が響く。

その大きさに俺は思わず顔をしかめて、それから傍目から見てもわかるくらい不機嫌な顔をした。

「悪い、持ってくんの忘れた!!今日写せなかったらまずいよな、小テスト明日だもんな!?」

この会話に至るまでの経緯はこうだ。

先日、俺は不覚にも風邪をひき学校を休んだ。

その日の物理の授業の内容が明日の小テストで出されると聞いたので、高尾にノートを写させてくれと頼んでいたのだが見事に忘れたらしい。

「どうしよ、このあとノート取りに俺ン家に寄ってく?」

高尾の家は帰り道の途中にはない。

わざわざ部活後に寄って帰るなど、面倒な事この上ない。

いつもならここで「今から家まで取ってこい」というところだが、今回はあくまで俺がノートを借りる立場だ。

さすがにそこまではできない。

「帰りにお前の家に寄ってやるのだよ」

「わりーな、そうして。ってどうせウチまでリヤカー引っ張るの俺だよね?」

相変わらず上から目線だよなとぶつぶつ言いながら、汗を吸って重くなったTシャツを首から抜く高尾。

それを目の端に映しながら、俺は「いいや」と答えた。

「実は帰りに済ませなければならない用事があるのだよ。終わったら行くから、先に帰っていろ」

「そ?わかった、そうするわ。んじゃお先にー」

学ランのボタンを留めて身なりを整える俺と対照的に、着替えたばかりの新しいシャツの上に学ランを羽織って早くも身支度を終えた高尾は

カバンを掴むとさっさと部室を出て行った。





駅前で母から頼まれた買い物を済ませたところで、スマホからライン着信の音が鳴る。

『ノートうちで写して帰る?』

この、話し言葉の延長で文章を書くのは高尾の癖だ。

接続語が省かれていてたまに読みにくい。

美しい日本語が損なわれている、実に嘆かわしい。

が、友達の少ない俺は「あまり固いことを言っていると友達いなくなりますよ」と旧友からアドバイスを受けている。

深く追及せず手短に返信をした。

『そのつもりだ』

するとまたすぐに次のメッセージが入る。

『途中で何か食い物買ってきてくれると助かる。一緒に食べよ』

…。

食べよ、の解釈はふたつあると思う。

ひとつは一緒に食べましょう、の意。

もうひとつは一緒に食事をせよとの命令。

「食べようと誘っているのか、食べよと命令しているのか、どっちなのだよ」

高尾は前者のつもりで送っているのだろうが、こういうどちらとも取れる文章は避けた方がいいと思わないのだろうか。

俺が指摘すれば、きっと高尾は腹を抱えて笑いながら「そんなこと気にすんの真ちゃんだけだってwwwてか何だよ食事をせよってwww俺何様www」などと言うに違いない。

人の忠告を笑って流す高尾に腹を立てていた時期もあったが、あのノリもバカ笑いも最近はもう慣れた。

ふっと息を吐き出して、前者の解釈で返信をする。

大人の対応というやつだ。

俺は通りにある何軒かのコンビニのうちの一軒に入るとすぐにスマホを操作した。

『わかった。何かリクエストはあるか?』

返信をするとすぐにまた着信音が鳴る。

カゴを手に取り、片手で内容を確認すると。

『真ちゃんが好きなので』

…。

なんだこれは。

愛の告白か?

リクエストはあるかと聞いてこの返信は有り得ない。

高尾め。

こういう時は、真ちゃんが好きな食べ物を選んで買ってきてくれればいいよと書くべきだろう。

略しすぎだ、この書き方では勘違いをされかねないぞ。

いや待て、じつは本当に愛の告白だったりしたら?

普段から高尾が俺に対して好意を抱いてくれているのは、中学時代鈍いと言われ続けた俺でもさすがにわかる。

もしかして高尾の好意は恋愛のそれだったのか?

…違うな、前後の文章から見てそれは唐突すぎる。

まったく紛らわしいラインを…。

一瞬でも愛の告白と勘違いした俺は、誰に向けるともなく咳ばらいをして、再度同じ内容の文章を作成した。

『食べたいものがあるならきちんと言え』

またも送信後すぐの着信。

『だから俺は真ちゃんが食べたいのでいいんだって』

…。

…???

一般的に解釈するならば、今高尾はとりわけ食べたいものが思い当たらないので、俺と同じメニューでいいということだろう。

だが、リクエストを聞いたのは二度目だ。

そこであえてこの返し。

先程の解釈をAとするならば、Bは

高尾は、真ちゃんが食べたい、なので食事はどうでもいいんだって。

となるのではないか?

コンビニの惣菜が並ぶ冷蔵棚の前で困惑する俺。

…。

真ちゃんが食べたい…?

いやいや落ち着け緑間真太郎。

こんな文章に込められた意味などない。

こんな弁当の注文を促すやり取りの合間に愛の告白がぶち込まれるはずがない。

可能性はゼロではないが、きっと違う。

そうだ、次だ。

次の返信で確かめればいい、それで全てがわかる。

『わかった。では、ふっくら食感のお魚フライ弁当でいいか?』

これでどうだ。

サンキューとでも返ってきたら、随分紛らわしくはあるが、さっきのやり取りはメニューを決めるためだけのラインだったんだとわかるではないか。

スマホからは着信を知らせる短いメロディ。

深呼吸をひとつして、画面を下にスライドさせていく。

『オッケー!真ちゃんが来るまでに時間あるよな、汗流したいからシャワー浴びちゃうね(*´ε`*)』

…。

…。

…。

そうか。

高尾、Bなのか。





「おっせーよ真ちゃん!!どしたの、なんかあったの!?心配したじゃん!!」

「すまないな。だが俺にも心の準備というものがあるのだよ」

「心の準備ィ???ノート写すのに???」

「それだけではないのだろう」

「え?んー…まあ、飯食って…ついでにイロイロ(物理)教えてもらっちゃおっかなーくらいは思ってたけど?」

「やはりそうか。だがな、教えろと言われても俺にも未知の世界だ、出来るかわからんぞ」

「あ、そーだよね。真ちゃん初めて(ノート見るん)だもんね」

「…あのな高尾、頼みがある」

「改まってなに?」

「俺も後でシャワーを借りられないだろうか。身を清めたいのだよ」

「ちょwww身を清めるってなにwwwいつの時代の人なの真ちゃんwww」

「うるさい!人がせっかくこうして覚悟を決めてきたというのに…!!」

「わかった、わかったって。いいから早く上がんなよ、早くやろーぜ」

「やる気十分だな高尾。いいだろう、どこからでもかかってくるのだよ…!!」









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あきゅろす。
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