[携帯モード] [URL送信]
今年もよろしく



真っ暗な思考の中、微かに音が聞こえる。それは次第に大きくなると共に、微かに明るくなる。自分を包むやわらかな感触と温度を感じる。あぁ、これは目覚めだ。
そっと閉じていた目を開けると、見慣れた天蓋が目に入った。
レギュラスはゆっくりと起き上がる。途端に冷たい空気が肌をさして、布団で温まっていたレギュラスから熱と眠気を奪う。
寮の寝室に一つだけある天窓から光が入ってくる。レギュラスその光をぼうっと見ながら頭を働かせる。
ルームメイトの友人達は皆クリスマス休暇で家に帰っていて、部屋は驚くほど静まり返っている。レギュラスにとっては広い部屋で気兼ねなく過ごせる貴重な時間で、大きく背伸びするのも皆がいないからこそ出来ることだ。
サイドテーブルの時計に目をやると、短針は10より少し右側の位置にある。今日で今年も終わるのに、こんな時間に起きるなんて。遅くまで本を読んでいたためかもしれない。
レギュラスはベッドから降りて着替えを手に取る。シャツのボタンを閉めながら今日の予定を考える。読み終わった本を返して、新しいのを貸りようかな。読み終わった本に目をやると、本の上に白いメモが置いてあるのに気付いた。
開いてみると、『23時50分 天文学の観察場』とだけ書かれていた。何これ?


今年もよろしく



現在午後11時45分。僕は観察場に来ているが誰もいない。
寒い。僕の息は口から出ると、積もっている雪と同じ色になって空気に紛れて消える。顔をマフラーにうずめて暖をとろうとしたがあまり変わらない。あのメモは多分ここに来いと書いてあったのだろう、というかそうでなかったら空しすぎる。校則違反をしてまでここに意味がなくなる。休暇中で消灯時間の規則も緩くなっているとはいえ、見つかったら怒られるに決まっている。僕はコートのポケットからメモを取り出して見る。この丸っこい字はおそらく自分の後輩のものだろう。それ以外に思い当たる人がいない。あと2分で50分になるのに、呼び出した本人が遅刻してどうする。


「お、遅れましたごめんなさい!」


バンッと勢いよく扉を開けたエルザは、振り返った僕の顔が怖かったのだろう、「ひっ」と声を上げた(失礼だ)思わず眉間に力がこもる。ああ、僕今すっごい不機嫌な顔してるんだろうな。腕時計を見ると丁度50分。


「時間には丁度間に合ってるよ。僕より遅かったけど。」

「す、すいません(わあ怒ってるよひぃ!)」

「ハァ、で、何なの?」

「(ため息つかれた!?)いや、あの、あ!」


これどうぞ!とエルザが持っていたバスケットから取り出したのはフタがされた保温マグ。中身は湯気の立つカフェオレだった。コーヒーの匂いが鼻をくすぐる。ありがとう、と言うとエルザはさっきまでの不安な表情から一転して、パッと花が咲いたように笑う。
立って飲むのも何なので、近くにあったベンチの雪を払い、乾燥呪文をかけて(今度はエルザの顔が感動のそれになった)エルザに座るように促して自分も座る。エルザが自分のカフェオレを取り出すのを見て、レギュラスはカフェオレに口を付ける。熱いカフェオレは冷えた体にじんわりとしみる。
ふと隣に目をやると、エルザは時計を取り出して見ていた。見たかと思うと急にすくっと立ち上がってレギュラスの方を向く。姿勢は時計から離れない。何してるの、と聞こうと口を開いたが、エルザによって遮られた。

「5!」

キン、とエルザの声が響く。

「4!」

何をしているんだろう?エルザを見るが依然時計を見たままだ。

「3!」

エルザは何かを数えているみたいだ。

「2!」

あぁ、もしかしたら。

「1!」

エルザが時計を下ろして僕を見る。

「0!」

破顔。あどけない笑顔がこぼれる。

「Happy New Year!先輩、今年もよろしくお願いします!」

一番最初に言いたかったんです!と言うエルザの目は輝いていてまぶしい。

「・・・こちらこそ、よろしく。」

エルザに対して、僕の返事は、感情がこもっているのか疑いたくなるような低いトーンなのに、エルザは嬉しそうに笑みを深くする。この子は、こんなにも優しく笑うエルザは、本当に僕と同じ寮の生徒なんだろうか?

僕はきっと動揺しているんだ。だってこんなにもまっすぐな好意を寄せてくれる人を初めて見たんだ。だから僕の頬が熱くなるのも、胸が温かくなるのも、きっとこの動揺からきているんだ。

「あ!カフェオレのおかわりありますよ?・・・先輩?」

いっこうに返事をしない僕を不思議に思ったのか、エルザが覗き込む。フイッとそらして僕は顔を見られないようにする。顔が熱い。









レギュラスが背伸びとかありえない←
今年もmacaroonをよろしくお願いします!


[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!