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あの子のために






「あ、レギュラスこれ見て!これ前エルザちゃんがくれたしっとりさっくりジャイアントチョコチップクッキーだよ!これお土産にしよう!」

「ああ、あのクッキーね。」

「あ、レギュラス!この棒つきキャンディの味7種類に変わるんだって!これきっとエルザちゃん喜ぶよー!」

「・・・あのさ、ハロルド。」

「何ー?」

「それ全部買うの?」

「え?うん。」


それ、と僕が指差したのはハロルドが右手に持つカゴ。ハロルドが手当たり次第にお菓子を入れていくのでカゴはお菓子で溢れんばかりになっている。ちょっとこれは、多すぎる。


「もしかして、そのお菓子全部エルザへのお土産?」

「もっちろんじゃないか!2年生はホグズミートに行けないんだし。」

「ちょっと多いよ。減らしなさい。」

「えー!」

「えーじゃない。エルザに虫歯作らせる気?」

「う、」

「ただでさえあの子は歯磨き嫌いなんだから、そんなにお菓子あげたらせっかく歯を磨かせてもまた夜中にお菓子食べて虫歯作るんじゃないの?」

「わ、分かったよ!減らせばいいんでしょー!」

「はいはい、早く戻してきてよ。」


若干ふてくされた様子で、でも仕方なさそうにお菓子を戻しにいくハロルド。僕ら二人がホグズミートに行くのに自分は行けないとむくれていた後輩に、確かにハロルドはお土産を沢山買ってくると約束した。したけど、限度ってものがあるだろう。全く、と息をつく僕の横を通り過ぎた人のカゴがふと目に入って絶句した。ハロルドのよりも更に沢山のお菓子が入れられている。というより、盛られている。このごった返した店内でこれだけのお菓子を手に入れられるなんて一体誰だ「あ、レギュラス君だ」ルーピン先輩だ・・・


「こんな所でレギュラス君に会うとは思わなかったな。」


こんな所で、とは、むせかえる程の甘い匂いがするハニーデュークスのことで、エルザの付き添いで参加するルーピン先輩とのお茶会でも専らコーヒーしか飲まない僕は確かに似合わないように見える(逆に山盛りのお菓子を持つルーピン先輩はびっくりするほどこの場に馴染んでいた)


「付き添いです、ハロルドの。」

「ハロルド君?」

「エルザのおみやげを買ってるんですよ。」

「ああ、ハロルド君も?」

「『も』?、先輩まさか、」

「ん?勿論エルザちゃんの分も買ってあるよ。お茶会で要るじゃないか。」

「ルーピン先輩・・・」


眩暈がした。そうだ、この人のことを忘れていた。ハロルドよりもずっとお菓子好きなルーピン先輩が、ホグズミートに来てハニーデュークスでお菓子を買わない訳がない。そしてお茶会に遊びに行くエルザに、毎回お土産と称してお菓子をあげるのも。


「お言葉ですがルーピン先輩、エルザにお菓子をあげすぎないで下さい。夜中にこっそり食べて虫歯作りそうなんです。」

「うーん、君は本当にお父さんだねえレギュラス君。」

「・・・はあ。」

「心配しなくても大丈夫だよ。僕の寮ではリリーがうるさいんだ。」


リリーは心配性なんだよねえ、とこぼれた愚痴を聞かなかったことにしてこっそりエバンズ先輩に感謝する。まあエバンズ先輩がいるなら大丈夫だろう。そうこうしている内にハロルドが戻ってきた。


「レギュラス!戻してきたよーこのくらいなら大丈夫だよね!ってリーマスさんじゃないですかーこんにちは!」

「ああこんにちはハロルド君。」

「おかえりハロルド。・・・まあこれ位ならいいかな。」

「でっしょー大分減らしたもん!じゃあ買ってくるよー!」

「はいはい。行ってらっしゃい。僕は入り口で待ってるよ。」


とか言っている間にハロルドはレジに並ぶ人混みに紛れた。本当に行動力あるなあ。リーマス先輩も「じゃあ僕は新作チョコレートのチェックに行くから。」とまた人混みの中をを悠々と歩いていった。まだ買うのか。そういえば兄さん達は一緒にいないのかな?まあいいけど別に。そのどれもを口にはせずに、慣れつつある甘い空気(比喩的でなく本当に空気が甘い)を抜け出し外に出た。

外に出た途端に夏の名残の少し強い日差しが肌を刺したけど、それでもからりとした空気は心地の良いものだ。
思わず深呼吸をした僕の目に、ふと向かいの店のショーウィンドウが目に入った。女子がいかにも好みそうなアクセサリーが並んでいて、その中の、一つのヘアピンに目がいった。なんとなしに近づいてそれを見る。硝子玉をモチーフにした金のそれを見て、エルザの絹糸の様な黒髪を思い出した。私だけ置いてけぼり!とぐずついた後輩の髪の毛を、今朝のハムエッグの黄身に入りそうだった(何せ身長が低い彼女の頭は椅子に座ると僕の肩位までしかないのだから)のをのけたのを覚えている。少しだけ値が張るけど、彼女の髪にはこれが良く映える気がした。











「レギュラスお待たせ!レジすごく混んでて時間かかった!」

「そうだろうね。」

「でもきっとエルザちゃん喜ぶよー!」

「まあ機嫌は直るね。」

「レギュラスはお土産買わないの?」

「(唐突だなあ)もう買ったよ。」

「え!何何いつの間に!」

「さーそろそろ帰るよハロルド。」

「ちょっと待ってよレギュラース!」




あの子のために








20090805 安藤ナツ


アクセサリーショップに入ったのが恥ずかしかったレギュラス。

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