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お菓子パレード


「わ、先輩!このクッキーすっごく美味しいです!」

「でしょ?ハニーデュークスの新商品なんだ。」


口いっぱいにクッキーを詰め込んでモグモグさせているエルザちゃんを見ると微笑ましい気持ちになる。新商品のハニーデュークスのクッキー(しっとりさっくりジャイアントチョコチップクッキー)を両手で持ってサクサクと食べるエルザちゃんは、ほっぺたがぷっくり膨れていてなんか栗鼠みたいだ。

冬休みに廊下の騙し床で出会って以来、僕はよくエルザちゃんをグリフィンドール寮に招いてお茶をするようになった。グリフィンドールの生徒は最初は緑のネクタイのエルザちゃんに怪訝な目を向けていたけど、彼女の持ち前の無邪気な愛嬌(本人は全く無自覚だが)でもって何の問題もなく彼らの日常にすんなりと溶け込んでしまった。最近では女子生徒がエルザちゃんにキャンディをあげる姿も見かけるようになる次第だ。自分の寮と敵対関係にあると言ってもいい寮のエルザちゃんへの風当たりを少し心配していたけど、この調子だと何の問題もないようで安心した。
エルザちゃんとの会話を僕は楽しいと思うし、ハニーデュークスのカタログ商品を見るときに彼女が喜ぶかどうかが判断基準の一つになりつつある。だからエルザがグリフィンドールの生徒に受け入れられて本当に良かった。エルザとのお茶会は既に自分の生活の一部になっているのだから。

両手でマグカップを持ってホットミルクを飲むエルザを見て、ああ平和だな、と柄にもなく思ってみたりする。あ、今のちょっとおじさんくさかったかも。


「ふー、おいしかったです!」


マグカップを下ろして満足そうなエルザちゃん(口の周りにミルクのヒゲが出来ている)に思わず笑ってしまう。不思議そうに見つめてくるエルザちゃんは本当にかわいい。レギュラス君が構う理由がなんとなく分かる気がする。ナプキンでエルザちゃんの顔を拭ってやる。触れた頬はマシュマロみたいに柔らかい。いいなあ、妹がいたらこんな感じなのかな。ナプキンを畳みながらふとテーブルに視線を落として、僕はあることに気がついた。


「エルザちゃん、もう食べないの?」


エルザちゃんの皿の上には二枚のクッキーが残っていた。いつもはお菓子を残さないエルザちゃんには珍しい。少し居心地悪そうにするエルザちゃんに僕は首を傾げる。


「あの、このクッキーとっても美味しかったんです。」

「うん。さっきも聞いたよ。」

「だからですね、自分だけ食べるの勿体無いなあって・・・」


そこまで聞いて僕は理解する。


「つまり、レギュラス君やハロルド君に持って帰りたいってこと?」

「はい。・・・駄目ですか?」


そう言って不安そうに見つめてくるエルザちゃん。もちろん駄目な訳がない。優しい子だな、と思う。お菓子が大好きなエルザちゃんのことだ。本当は自分が食べたいと思ってるんだろうに、それを我慢してでも二人にあげたいんだろう。


「いいよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


ぱっと明るくなるエルザちゃん。なんか見てるこっちも嬉しくなるんだよなあ。アクシオで呼び出した紙袋にクッキーを入れて渡す。そろそろお開きかな?寮の出口まで見送ろうと立ち上がってエルザちゃんの後をゆっくり追う。


「あ。」


不意にエルザちゃんが立ち止まる。何かを思い出したように、ごそごそとポケットを探り始めた。


「先輩、」

「なあに?」

「これあげます!ハロルド先輩がくれた中で一番おいしいの!」


僕の手に乗せられたのはころんとした棒付きキャンディ。プリントされているロゴは有名なお菓子メーカーのものだ。学生には少し値が張るので僕もあんまり買わないけど、すごく美味しいやつだ。


「いいの?エルザちゃんが楽しみにとっておいたんじゃないの?」

「はい!美味しいものは分けるものなんですよ!」

「そっか。ありがとう、大事に食べるよ。」

「どういたしまして!」


ふふふ、と笑うエルザちゃんの頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。本当に良い子だなあ。悪い人に捕まらないようにレギュラス君にはしっかりしてほしい。さよーならー!と力いっぱい手を振って走り出したエルザちゃんに、僕はさようならとまた来てねの意味をこめて振り返した。


お菓子パレード


今ごろ彼女はレギュラス君とハロルド君にクッキーをあげてるのだろうか。少しうらやましいけど、今の立場もなかなか楽しいからいっか。









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