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後編




「生え替わり?」

「ええ。虫歯ではありませんね。ほら、大分抜けてきたので簡単に取れましたよ。」


そう言ってマダム・ポンフリーはエルザの抜けた歯を見せる。うわー小さいなあ、って・・・


「エルザちゃんまだ歯全部抜けきってなかったの?」

「あう、そうみたいです。なんか歯が無くてすかすかする。」

「こらこら触らないの。」


虫歯じゃ、ないんだ。
いや虫歯にならないに越したことはないんだけどね、ないんだけど・・・・・・さっきのあの僕の一連の気苦労はなんだったんだ。
エルザもエルザで「わーい枕の下に入れておこう!」とか言って歯が取れた途端に元気になるんだし。なんか、なんか・・・


「はあー・・・。」


本日最大のため息。


「あー先輩!幸せ逃げちゃいますよ!」

「そうだぞレギュラス。禿げるぞ。」


誰のせいだ。と思ったけど話がこじれるのは目に見えているし今は避けたい。これは我慢するしかない。


「うるさいよハロルド。僕もう疲れた。」

「レギュラスが疲れたって?そりゃ大変だ!」

「疲れた時には甘いものです!皆でリーマス先輩の所にお茶に行きませんか?」

「お、いいねえ俺も行っていいの?」

「はい!行きましょ行きましょ!」


そう言って、わー!っと医務室を飛び出した二人をレギュラスはげんなりと見やる。我慢してもこじれるのか。
止めるのは無理そうだし、もしかしなくても着いて行かなければならないだろうな。何でこういう時の二人はあんなにも団結力があるんだ。ああ、足が重い。ついでに頭も重い。
僕はマダム・ポンフリーにお礼を言ってから医務室を後にする。出口でニヤニヤして待ってるハロルドに気づいてじろりと睨む。


「あらやだレギュラス怖い。拗ねてる?」

「・・・何が?」

「んー?だってさ、」


ハロルドはますますにっこり(僕にはニヤニヤにしか見えない)笑う。


「『いつもは僕がエルザの異変に一番に気づくのに。』、とか言いたいんじゃないの?」

「・・・何が言いたいのさ。」

「べっつにー?」

「せんぱーい!早くいきましょー!」


エルザが僕らを呼ぶ。ハロルドは「今いくよ」と言って、ぽんと僕の肩を軽く叩いて歩き出す。僕はため息をひとつ。ひどく口の中が乾いていて驚いた。
あれ、何だ?なんか僕、緊張、してたみたいじゃないか。


「レギュラスせんぱーい!置いていっちゃいますよー!」

「レギュラス早く!俺グリフィンドールに行くの初めてなんだよ早く行きたいんだよ!」

「あ、ちょっと・・・」


待ってと言おうとしたら、二人の乗っている階段が突然動き出した。僕はあわてて走る。走る、走る、おいていかれないように。
「うわ!レギュラス!」ハロルドが伸ばした手をとって飛び移った。足が床を蹴って一瞬体がふわりと浮いて、再び衝撃。「う、わ!」着地に失敗した僕は二人を巻き込んで見事に階段に倒れ込んだ。


「いったーレギュラスいったー!」

「ご、ごめん。」

「むぐ、先輩コーヒーの匂いします重いです。」

「わ、ごめんエルザ!つぶしてる!」


慌ててエルザの上からどこうとするけど、動いている階段の上ではなかなか起き上がれない。下手すると落ちそうだ。ようやく立ち上がってエルザを引っ張り起こした時には、3人とも軽く肩で息をしていた。


「はあ、動く階段の上って動きづらいんだねー。」

「そうですねー。でも先輩が落ちなくて良かったです!」

「う、ごめんエルザ。」

「そうだぞレギュラス!エルザちゃんよりひと周りもふた周りもでかいんだから!」

「・・・ごめん。」

「え、あらら、ちょっとレギュラス冗談だって!」

「いや、だって、」

「・・・ぷっ!先輩すごいカオー!」

「え、」

「ほらほらエルザちゃんも気にしてないみたいだし!そんな辛気臭い顔するなって!」

「し、辛気臭いって・・・!」

「あ、階段止まりました!さあ行きましょう!」

「え、ちょっとエルザ!」


エルザが僕の手を引いて走り出す。後ろから慌ててハロルドも追いかけてくるのが分かる。ああまた走ったら転ぶよ、と思ったけど、言わないでおく。「おやつー!リーマス先輩ー!おやつー!」と繰り返すエルザの後髪が走る度にぴょこぴょこ跳ねるのが何だか微笑ましかった。とりあえずこれだけは言っておこうか。


「エルザ、グリフィンドール寮通り過ぎたよ。」





急がば回れ








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あきゅろす。
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