前編
「エルザちゃんの様子、なーんか変じゃない?」
「え?」
食後のコーヒーを飲んでいると、同じようにコーヒーを(しかしこちらは砂糖とミルク入り)飲んでいたハロルドがややあ、と口にした。ほら、と指差した先にはエルザ。スプーンの柄を握る独特の持ち方をして、オムライスのグリーンピースを避けながら食べている。好き嫌いをするなっていつも言ってるのに・・・
「変って、エルザが?いつものことじゃないの?」
「前から思ってたけどさ、レギュラスって結構きついこと言うよね。」
「どこが?ただ行儀悪いのを指摘してるだけだよ。」
「えーレギュラスパパ怖ーい。」
「・・・」
「ごめん冗談。」
じと、と視線をやるとハロルドは肩をすくめる。謝るくらいなら止めればいいのに。ハロルド曰わく「スキンシップ」らしいけど、なんだかなあ。
でもハロルドは嘘は言わないことも確かだ。エルザが変ってどういうことだろう。もう一度エルザに視線をやると、エルザは幸せそうにオムライスをもぐもぐと頬張っていたが、次の瞬間にはぴた、と頬張るのを止めた。あれ?
「ね、おかしいでしょ?」
「うん、そうだね。」
エルザは泣きそうな顔をしてスプーンを置くと、ゴブレットの水を飲んで立ち上がった。まだオムライスは半分程残っている。オムライスはエルザの好物なのに、確かに変だ。
「どうする、お父さん?」
はあ、とため息をついて立ち上がった僕に、ハロルドがニヤリと笑った。ああもう皆して何なんだ。
「エルザ。」
大広間を出たところでエルザに追いつく。エルザはびくっと肩を震わせて恐る恐る振り返った。何その悪さしたみたいな態度。
「あ、先輩こんにちは!」
「はいこんにちは。もう夕方の6時過ぎてるけどね。」
「・・・こんばんは?」
「うん、こんばんはエルザ。何か急いでるの?」
「え!いや・・・そう!急いでます!」
ものすごく目が泳いでる。
それにすこし引きつった笑顔。心なしか汗もかいてる。明らかに何か隠している。
正直すぎるのもここまでくると考え物なんじゃないのかなあ。大人になったらちゃんとやっていけるんだろうか。ってこれ本当に親の心境だ。とりあえず考えるべきは未来じゃなくて今だ。
「・・・エルザ。」
「はいいっ!き、今日はハロルド先輩には飴は貰ってませんよ!」
「まだ何も言ってないんだけど。ていうかハロルドからもお菓子貰ってるんだ。」
「あ・・・」
あからさまに「しまった」って顔してるけど遅い。ハロルドはいつの間にエルザにお菓子あげてたんだろうか。えへへ、と苦笑いをするエルザのおでこを手のひらでぐりぐり押す。「痛いです!」うん知ってる。
「はあ・・・夜中には食べてないよね?虫歯になっても知らないよ。」
「ぎくっ」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・エルザ?」
「はいいっ!失礼しますっ!」
「あ、こらっ!」
逃げた。
追いかけようとか考えたけど、考える前にエルザが転んだ。べちゃって転んだ。自分の足に躓いてた。あちゃあ。
「・・・あー、エルザ、大丈夫?」
「うう、痛いです。」
「あらら、エルザちゃん大丈夫ー?」
僕の後ろからひょこっとハロルドが覗かせる。僕の肩にハロルドがあごを乗せるから少し重い。
ハロルドを退かせた丁度そのとき、エルザがハロルドに気付いたかと思うと、ぴゅっと起き上がってハロルドの後ろに隠れた。ちょっと何これ。
「あははーエルザちゃんこんばんは。」
「こんばんは!」
「どうしたの、いきなり隠れちゃって?レギュラスに嫌なことされたの?」
「(こくん、)」
「レギュラス、君ってやつは・・・」
「はあ?」
いやいやエルザ「こくん、」じゃないでしょちょっと、こらエルザ目を逸らすなハロルドこっち見るな。ていうか明らかに楽しんでるでしょハロルド。本日何回目かのため息。僕もう疲れてきたんだけど。
「エルザ、こっちに来なさい。」
「い、嫌です。」
「レギュラスこわーい。」
「ハロルド、エルザにお菓子あげてたでしょ。」
「え、何のことー?」
「・・・(ぎゅっ)」
「あれ、もしかして。・・・ばれちゃってる?」
「(こくん、)」
「あは、ははは、」
「ハロルド・・・エルザは君のお菓子のせいで虫歯になったんだけど。」
「え゙、何それ初耳!」
「あー先輩言っちゃダメ!」
「今言った。エルザ、医務室行くよ。」
「いやです!いーやーハロルド先輩ー!」
「ごめんエルザちゃん、レギュラスには逆らえない。」
がっしりと嫌がるエルザの襟を捕まえて医務室へ。「今治さないとお菓子食べれないよ。」と言った途端に大人しくなるけどすごく嫌そうだ。ハロルドも着いてきて騒がしいことこの上ない。僕これでも由緒正しいブラック家なんだけどなあ。
ああ視線が痛い。
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